美紀は、吉岡に話した後に吉岡は言った。

「なるほど、だがおかげでつながったよ。

北条さんを殺した堺は、元一級捜査官の凄腕のスナイパーだ。

そして、岩月は東大の教授として表面的に動いている敵側の中枢を担う幹部といったところだろうな。

そして、倉橋は内閣調査室の一級捜査官として潜入した人物だ。

敵も味方も欺くには、奴くらいできるやつじゃなきゃな。

警察庁長官も、政治家になった上で国そのものを変える気でいる。

来年には、外務副大臣の座が確定してるそうだ。

力あるものとつながることで、上にあがる。

だからこそ、いかに力あるものとつながることができるかがポイントになる。

何かを成すには、力が必要だ。

全く世の中は、間違がってるね。

正しいことを、成すには力あるものの言いなりになることで気に入られる必要があるからだ。

そういうやり方をしなければ、トップに立って本当にやらなければならないことをすることはできないからな。

トップに立っても、あらゆるところからの反発との戦いになるだろう。

つまり、トップに立った上で多くの力ある味方をもてなければどんなに理想をかかげても無理になるというわけだ。」

美紀は、日本の現実を改めて知った。

父は、言っていた。

「正しいことをしたければ偉くなれ。」

だが、ただ偉くなったとしても上手くはいかないのだ。

何よりも重要なのは、理想を成すための仲間であるということである。

この腐りきった世の中を、終わらせ誰もが理想とする世の中に変えていかなければならないのだ。

美紀は、改めて難しいと思った。

そして、奥田を恵里と二人がかりで捕まえた時、奥田は言った。

「俺は、鮫島刑事局長の命令で動いた。

その背後には、国務大臣の長谷川がいるという噂がある。

だが、悪いことは言わない。

長谷川を追うな。

おそらく黒幕は、別にいる。

黒幕にとっては、玩具だ。

部下の全てがな。

つまり、黒幕に逆らえないから従っているとそういうことだ。」

美紀と恵里にとって、特に何も知らない恵里にとっては驚愕するしかなかった。

しかし、たとえ恵里でも話すわけにはいかない。

こうして二人は、東京に戻った。

そして、小野田久美子に出会った。

久美子は、恵里がいない間クラスのリーダー的存在で、明るく本当にいい娘だった。

恵里は、最初は小野田という名前で警戒していたようだが、すぐにうちとけ親友となった。

美紀も久美子とは、すぐに仲良くなった。

久美子は、美紀に言った。

「恵里は、小野田の名前に反応を示したけど、どうしてあなたは反応を示さなかったの?

あんな悪魔にどうして。」

美紀は、苦笑いしながら言った。

「理由は、小野田は所詮命令で動いてるだけだってことよ。

だから気にする必要はないし、あなたも何故あなたの伯父がそういうことをしてるか考えた方がいいわよ。

じゃなきゃあなたは、いずれ後悔することになるわ。

人を憎むことそのものが、間違いだから。」

久美子にとって、その言葉は大きかった。

もし、美紀に会わなければ一生後悔することになっただろう。

伯父の真実を、何も知らないまま憎んでいたのだから。

恵里は、正面きって伯父と対立していくことになるのだが、だが恵里も決して伯父の件に関わらせるようなことはさせなかった。

久美子にとって美紀と恵里は特別な存在だった。

誰よりも尊敬し、一目おいていた。

しかし、響子にとっては眼中にもなかった。

響子にとっては、研究したい病気が山ほどあったからだ。

響子は、本気で世界一の外科医になりたいと考えていた。

だから、美紀以外は眼中になかったのだ。

恵里と響子さえ仲良くなれば、響子を変えることができるのにと美紀はいつも苦笑いしていた。

だが、当の二人が近づこうとすらしないのだから仕方ない。

恵里にとっても響子だけは、苦手だった。

しかも、高知での事件や正面に宿敵小野田がいるのだからなおのことかまってる暇などなかったのだ。

何の悩みのない状態で、いつもの恵里なら、とっくに仲良くなっただろうが、この時はどうしようもなかったのだ。

美紀と恵里と久美子は、三人で気分転換で出かけた。

まずは海へ行き、最高の景色の中で三人は泳いだ。
本当に、いい気持ちになった。

いつもの悩みが嘘のように、流し去ってくれるような感覚である。

美紀や恵里は、久しぶりに心からの笑顔になることができた。

美紀も恵里も、楽しかった。

しかし、美紀に初めて腹痛がおそってきたのもこの次期だった。