工藤教授は、話してくれた。

以前は体を酷使することが多く、体への過剰な負担が原因で腰痛や膝の痛み・・・などの症状を引き起こす事が多かったようだが、現代では、生活習慣の乱れ(ストレスや食生活の乱れ・睡眠不足など)が内臓に負担をかけ、さまざまな症状を引き起こすケースが多くなってきた。

特に肝臓は、現代の生活において負担が大きく、またなくてはならない重要な臓器であり、 肝臓が疲労すると疲れやすくなりばかりでなく、肝臓とつながっている神経も緊張して頭痛、肩こり、腰痛などを引き起こしたり、お腹の血流が悪くなるために他の臓器まで影響を与える場合もある。

では、肝臓の疲労と頭痛・肩こり・腰痛との関係は何なのか。

それは、肝臓の大部分は上腹部の右側にあるため、疲れによって肝臓は緊張して硬くなるとその影響で肝臓と関係のある背骨の右側から出ている神経も緊張し背骨を歪ませ、体幹部(胴体)の右側も緊張する。
その結果、右肩が下がり右の骨盤は上がる。

体の右側が緊張・収縮しているために、手を伸ばしたときも右が短くなり、右の骨盤が高くなるため足を組むときは右足を上にした方がバランスをとりやすくなる。

さらに、肝臓を働かせる自律神経(意思とは無関係に体の機能を支配している神経)の緊張で、左の上部頚椎が歪み、首の筋肉である僧帽筋が緊張

するため首は左へ傾き、 上部頚椎は頭や耳、目、鼻などにつながっている神経があるため、上部頚椎が緊張すると、頭痛・耳鳴り・めまい・眼精疲労などが起こりやすくなる。

(肝臓の緊張が横隔膜の神経を通して右の首・肩・腕の痛みを引き起こす場合もある。)

血液の流れで考えてみる

と、肝臓には胃腸や膵臓・脾臓からの静脈血が門脈という血管を通して集まってくるが、肝臓が硬くなると門脈の流れが悪くなりうっ血するため、他の臓器にまで負担がかかる。

この様な関係から、肝臓が疲労すると「神経の緊張・血流の乱れ・体の歪み」などが起こり、さまざまな症状が出るのだ。

そして、次に肝臓の働きは

①胆汁をつくり、十二指腸に分泌し脂肪の消化を助ける(1日500~1000ml)
②グリコーゲンの合成、貯蔵、分解を行う→※
③血漿タンパクの合成
④不要アミノ酸を分解して尿素をつくり、腎臓から排泄する
⑤血液中の有毒物を分解して無毒とする(解毒作用)
⑥古くなった赤血球を破壊する
⑦血液の貯蔵

※ホルモン(インスリン・グルカゴン)の働きによって、血糖の多いときにはグリコーゲンとして肝臓に蓄え、血液中の糖分が不足するとグリコーゲンをブドウ糖に変え血液中に送る


肝臓の話をすると、よく「肝臓の疲労」=「お酒の飲み過ぎ」と思っているのが多いが、アルコールの分解はたくさんある仕事の一つでしかなく、肝臓はたくさんの仕事を行っているのだ。

最近では、食生活の乱れ
による肝臓への負担(①~⑤)が多く、特にメタボリック(「肥満症」、「糖尿病」、「高血圧症」、「高脂血症」など)が要注意である。

また、ストレスや悩み事が多い人は、自律神経(血管の収縮や内臓の働きを調整している神経)が乱れて、内臓の機能が低下している人も多くいるのだ。

響子は、このことを美紀に話してみると美紀は言った。

「病気は、どれも難しいけど、肝臓は初期段階じゃまず普通は気づかないから要注意だよね。

それに、命に携わる人は皆、緊張してるから逆に言えば神経質な人ほど病気にかかりやすいということにもなるよね。

もちろん飲み過ぎや肥満・体質も、原因の一つだとは思うけどね。

そして、多分医療関係者が何よりも注意しなければならないのがストレスだよね。

ストレスは、肝臓や神経にとって一番の敵だからね。」

美紀は、そう言いながら別のことを考えていた。

国谷と高倉の話しを、聞いてしまった以上、この重い現実をどうするのかという問題が生じたのだった。

美紀は、高倉の命がけの戦いを考えれば、沈黙を守る以外選択肢はなかった。

美紀は、ある場所にこの重要なことを紙に書いて隠した。

そうでもしなければ、落ち着かなかったのだ。

そして、ホットしたのも束の間、研修はいきなり中止となり、市原教授が大学を辞めさせられて、イギリスの病院に異動することが決まったのだ。

美紀と響子は、市原に会いに行った。

そこで、恵里と市原の会話を聞いてしまった。

「よう。古波蔵君。よく来てくれたね。」

「教授すいません。

私のせいで。」

「気にしなくていい。

私は、国谷先生の力でイギリスの大病院に紹介してもらったんだ。

問題なのは、伊島教授になったことで、君達の勉強が遅れることだ。

おそらく伊島教授は、マニュアル通りにしか動かないはずだ。

伊島教授じゃなくても、今、看護大学は政界に目をつけられてるから動けない。

でも、あと三ヶ月辛抱するんだ。

国谷先生自ら、看護大学に来てくれることになってる。

国谷先生さえ来れば、またいろんなところに研修に行けるはずだ。

それまで、おとなしくしていなさい。」

教授は、そう言った。

恵里は、肩を落としていた。