一番最初は、美紀の試合から始まった。

勝負は、互角の戦いだった。

お互いに技ありを一つずつ取り、お互い一歩もゆずらなかった。

しかし、八分が経とうとした時、美紀は投げ技で決めた。

大会では、新生誕生と沸いた。

恵里は、相手が無名ということもあり上段回し蹴りで勝負に出たが、あっさり受け止められた。

カウンターできるはずなのに相手は、わざとしてこなかった。

彼女こそ、真田由利、すなわち美紀の姉だった。

もちろん、美紀の親友だと由利は知っていたわけではない。

恵里も美紀の姉だとわかっていたわけではない。

由利は、空手四段の実力者である。

明らかに素人相手に、カウンターをやってしまったのではそれだけダメージは大きいものになる。

だから、あえてカウンターをしなかったのだ。

由利は、イタリアでは有名な空手の使い手なのだ。

日本にたまたま戻ってきて、友達の代理として出場したのだった。

由利は、恵里の腹部に一撃をくらわせて気絶させた。

由利は、当然、その大会そのもので優勝した。

本来なら、オリンピックで金メダルを目指してもいいはずだが、彼女はあくまでも医者になること以外頭になかったのである。

美紀は、二回戦・三回戦はあっさり勝ち、四回戦は死闘の末、国山寛子に美紀は敗れた。

寛子は、本選出場しこの時ベスト8まで行った。

次の年には、大学選手権で優勝し、オリンピックにも出場するほどの実力者になるのだ。

寛子は、美紀とのこの勝負は忘れられなかった。

子供の頃から、こっちは柔道をやってきているはずなのに、半年しか経験のない美紀が互角に渡りあったのだから。

だからこそ、次の年優勝できたのかもしれない。

真田美紀という一人の天才が、寛子に執念を出させたのだ。

寛子は、今でも思う。

美紀が、いなければ今の自分はない。

恵里から、美紀の話しを聞かされる度に寛子は本当に辛くなった。

美紀という偉大な存在が、多くの人の人生を変え、その中でも恵里の心のダメージの大きさが、より辛いことに拍車をかけているのだ。

それだけ美紀は、輝いていたのだ。

格闘技をやってる間も美紀と恵里の医療における試練は続いていた。

新井教授に代わって、教授になった市原は本当に凄い人物だった。

誰に対しても親身になってその生徒に合わせて教えてくれるので周りからも生徒からも慕われていた。

美紀と恵里に教授になってから会った時、市原は言った。

「君達の絶対的な師匠である、新井教授がいなくなった今、あらゆることが今までとは変わるということを認識してほしい。

だが、君達の研修はこれからも進めていくからその点は安心してくれ。

早速だが、美紀、君には高倉学長のいる病院に行ってもらう。

恵里、君は長岡学長の大学病院の小児科に行ってもらう、小児科はどの科よりも忙しいということを覚えておくこと。」

美紀は、高倉の病院の外科に行くことになり、そして、とんでもないところを目撃してしまったのだ。

「高倉学長、これからこの三人のオペをしてもらう。

その際に、邪魔な三人の患者を追い出せ。

世の中身分相応というものがある。」

男は、そう言うとその場を去った。

男が、立ち去ると高倉は拳を壁に叩きつけた。

その男は、美紀の知っている人物だった。

経済担当大臣秘書の、川崎卓也である。

川崎の父は、現首相の川崎満である。

高倉の前に、国谷が現れた。

国谷は、言った。

「高倉学長、川崎の息の根を止める秘策がもうすぐ発動されます。

といっても、真の巨悪はのうのうとしているわけですけどね。

あと、三人の患者はアメリカの判断で極秘に新しくできる病院に移送します。

あと、これは朗報です。

CIAが、ついに極秘文書を見つけました。

新井教授が、命をかけて探し出させたものが、ようやくあの男の息の根を止める効力を発揮するというわけです。

しかし、そのまま公開してしまえば日本の機構そのものを壊してしまうことにもなりかねません。

だから、新井教授と金崎は考えたんですよ。

奴の息の根を止めるための方法をね。

しかし、新井教授までが、三嶋教授の話しによると殺されたそうです。

奴からしてみれば、新井教授さえいなくなれば、恐いものはないとそう思ったんでしょうね。

しかし、十年後奴の息の根は止まる、それまで今は待つしかありません。

しかし、実は新井教授はこうも仰ってました。

極秘文書も、もしかしたらフェイクの可能性があると、だからあなたにはもう少し二重スパイをやってもらいますよ。

奴に近づけば、間違いなく黒幕がでてきます。」

高倉は、言った。

「私もそのつもりだ。FBIの潜入捜査官の名にかけてな。」