美紀は、そうそうたるメンバーの前で言った。

「初めまして、真田美紀です。

皆さんの事は、兄である俊介から話しは聞いています。

皆さんに、お会いできて本当に嬉しいです。」

美紀は、笑顔で切り出した。

ガイナス教授も笑顔で、「俊介から、君の事は聞いてるよ。

俊介は、言ってた。

自慢の妹だとね。

無二の親友である秀一の弟子として、才能を発揮し始めているとね。

そして、それだけではなく私の不肖の弟子を目覚めさせてくれたようだしね。」

最後の方は、感謝の意味を込めていた。

美紀が、実力でランフォードを認めさせたことをこのメンバーは知った上で会いに来てくれたというわけである。

美紀は、医療の現実を聞かされた。

最先端医療だろうが、何だろうが人は簡単に亡くなってしまう現実があるのだということである。

医者は、どんなに救いたいと思っても目の前で患者が死んでいく現実がある。

もちろん医療が、進歩すればそれだけ患者が救われることになるのだが、救命救急の現実は、医者の命すら危ういのが現実なのだ。

それと同様で、他国の医療が進んでいない国での医療はいろんな感染症及び病気にかかる可能性もあるのだ。

そんな危険な状況の中で、一人でも多くの人を救おうとする医者達の戦いがあるのだ。

どちらも人を、救おうという強い気持ちがなければできないことである。

人を救うという気持ちからたてば、どちらも重要なのだ。

正解はない中でも、医者の考えや判断は違ってくるのだ。

日本で言えば、都市と離島の医療、どちらをするかと言うことに関してですら意見は、分かれるのだから。

それが、他国という事になれば尚更である。

だが、一人でも多くの医者がそういう国に一刻も早く行って治療するか、一人でも多くの患者を最先端医療のある国に移送して治療を行うなど考えていかなければならないが、連れてこれる患者は限られてしまう等の問題もあり、難しい問題も存在する。

つまり、一番いいのは多くの医者がそういう国に住み込み医療を発展させ多くの人を救うというやり方である。

だが、当然医者の危険は大きいものがあるのだ。

結局、その繰り返しである。

ガイナス教授を、始めとした先生達はそう話していた。

ライアンは、アイラと美紀に医療の現実を見せるためアフリカと南アメリカ大陸に連れて行った。

美紀は、毎日のように父に状況を報告した。

小山事務次官は、真田から報告を受けて、総理大臣以上の力を持つ高野官房長官と理想を果たすために取引をしたのだ。

高野は、半年後首相になることになる。

高野はこの時、全ての黒幕の呪縛から解き放たれるために大きな策を、考えていたのだ。

そのためには、総理大臣という権力が高野は欲しかったのだ。

だが、三年後事故で死ぬ事になる。

それはおいとくとして、小山は、アフリカ・南アメリカに派遣する医者を日本中の優秀な医者を集めて、多くの人を救う計画を考え始めた。

それは、四年後からその計画が発動することになる。

美紀と同様アイラも、ニールにありのままを報告した。

そして、チリで意外な人物が美紀とアイラの前に現れた。

警察庁出身の官房副長官谷山信人である。

元警察庁長官で、あるのでよく知っていた。

谷山は、最年少の警察庁長官になるほどの優秀な人物で上からも下からも公明正大な人物として評価され、次々に改革を成し遂げてきた人物なのだ。
彼が、いたからこそ和田刑事局長は巨悪を捜査するためのシステムを使って捜査ができたのだ。

美紀は、谷山を見て驚きながら

「谷山さん、どうしてここに?」

谷山は、深刻な顔をして言った。

「実は君に、伝えておきたいことがある。」

「何でしょうか?」

「実はな。小山事務次官は、これから先、君達にとって厄介な敵としてたちはだかる。」

「厄介な敵ってどういうことですか?」

「高野と取引したのさ。理想の医療を、実現させるためにな。」

美紀の表情を見ながら、

「高野は、私が20年に渡って追ってきた男の片腕と言われる男だ。

あの男が、敵にまわるということは厚生労働省は、動きが取れなくなるということだ。

それを理解した上で、動かなければ間違いなく君の父の人生は終わる。

その事をよく考えてくれ。」

美紀は聞いた。

「谷山さんが、追ってるその人は捕まえることはできないんですか?」

「それが、できるならここには来てないさ。

奴は、証拠一つ残さないから、とかげの尻尾きりで終わるだろう。

それが君が、理想の医療を目指すために支払った対価だ。

それを覚えておくといい。

じゃないと君の選択が、小山自身のこれからの出世の道も閉ざされてしまったことにもなるということだ。

後は、君しだいだ。」

美紀は、これを聞いた時、本当に重くなった。

自分の選択が、一人の人間の人生を変える恐怖をこの時知ったのだった。

だが美紀は、それでも未来のために先に進む道を選んだのだった。