演奏会まであと二日という所で、桜子と達彦は久しぶりに東京に向かったのだ。

その列車の中で、桜子と達彦はいろいろな事を思い出していた。

桜子は、笛子と祖父に反対され、達彦は山長の跡継ぎであるためにかねに反対されたところから始まり、今にいたるまでの二人の音楽の夢への道を。

「達彦さん、私達今まで本当にいろいろあったよね。」

「そうだな。今までいろんな事に、音楽への道を阻まれてきたからな。

俺も最初は、君に煙たがれてたしな。

初めて東京に上京した時は、大変だったけどいろいろな人に出会えて本当に楽しかったよな。」

「うん。私にとっては、かけがいのない同志達との出会いだった。

そして、その人達が自分の好きなことに自分の全てをかけて頑張ることの素晴らしさを教えてくれた。

だからこそ、今の私があるって思えるんだ。」

「自分の好きな事に、自分の全てをかけるか、そうだよな。

そうだよな。君はいつだって自分の全てをかけてた。

だからこそ俺は、君そのものが夢なんだ。

俺は、出征した時ずっと思ってた、君と一緒にピアノを弾きたいって。

そのためなら、絶対生き延びてやるって。

でも同時に、思ってたこともあった。

どんな理由があるにせよ俺は、戦争で人を殺した。
汚れてしまった俺は、いつもキラキラ輝いてる君にはふさわしくない、自分の側にいてほしい気持ちとそんな気持ちが、葛藤してた。

いつ死ぬかわからないから、というのもあったけど手が汚れてしまった以上、君と一緒になる資格はない、だから君に自分の人生を生きてほしくて俺は君宛の遺書を書いたんだ。

あの時の苦悩は、鮮明に覚えてるよ。

そして、若山の事が起こってしまったわけだ。

でも君は、俺の全てを受け止めてくれた。

あの時、申し訳ない気持ちもあったけど本当に嬉しかった。

そして、子供の頃から夢みてた君と一緒になりたいという夢が実現した瞬間、本当に嬉しかった。

君が病気になった時、俺は思った。

俺は、呪われてるって。

もしかしたら、戦争で死んだ仲間達が、お前だけ幸せになるのは許さないとそう言われてるような気がして、本当に怖かったんだ。

誰よりも大切な君を、俺のために巻き込んでしまったんじゃないかってな。
でも君は、生きて俺のところに戻ってきてくれたし、その上君と一緒に演奏会に出れる。

これほど嬉しいことはないよ。」

珍しい達彦の饒舌に、驚きながらも桜子は、達彦の気持ちが嬉しかった。

桜子は、言った。

「私も、今まで何度も音楽をやめなければならないようなことが起こって私は、私の人生って一体何なんだろう?って何度思ったかわからない!

でも、私はいろんな人に助けられていろんな人達の想いを受け止めてここまで頑張ってきた。

そして、私も達彦さんと一緒に演奏会で弾きたいってずっと思ってたからその夢がかなって嬉しいよ。」

達彦は、その瞬間桜子を軽く抱き締めてキスした。

二人共に、涙がでるほど嬉しかった。

そして、東京に到着した後、最後の打ち合わせに入った。

そして、マロニエ荘に到着しそこには同志達が待っていた。

親友の薫子も待っていた。
薫子は、桜子達より先に夢を実現し今では売れっこの小説家となっていたのだ。

「桜子・達彦さん久しぶり!

二人共ようやく夢が、実現するんだね。

私も、聴きにいくからよろしくね。」

「薫子ありがとう!」

親友と久しぶりに再会して、二人は一晩かけて話しあった。

そして、演奏会前日マスター・ヒロ・斎藤夫婦・西野先生までがやってきた。

斎藤は、奥さんの紹介をした。

名前はユリと言った。

表面的に、見ただけだと
温厚そうな可愛い女性にしか見えなかった。

斎藤は前に会った時、笛子と磯を足して二で割った感じであると言っていた。

桜子は、慎重に話す必要があると考えた。

今は、ただでさえ身重で明日演奏会である。

よけいな精神力は、使いたくないので桜子は、距離をおくことにした。

輝一がいるので、距離はおきやすい状況だった。

輝一を、あやしてるうちにそのまま桜子は寝てしまった。

輝一の声で目が覚めた。