――昨年吹き荒れたストの後、組合との関係はどうなりましたか
整理解雇については労組側が訴訟を取り下げ、全て解決しました。裁判所に訴えた人が12人いましたが、法的手続きを経て、最終的にはきちんと解決しました。
反省点は解雇通知当日の「やり方」でした。解雇理由や生活支援などに関する面談を行うため、工場から説明会場へバスで移動してもらったところ、テレビなどのマスコミに「非人間的で、トヨタらしくない」と受けとめられました。解雇通知を受けた人はショックで歩けなかったりする場合もあるので配慮したのですが。その真意がマスコミにうまく伝わらなかったのは反省点です。
――解雇対象者の選定で、病欠や無断欠勤歴を考慮に含めた点がメディアで批判されました
確かに勤務評価を約10項目の基準の一つに含めましたが、特に批判を受けたという印象は私にはありません。そのことは組合も合意しています。ただ、(社員の無断欠勤の横行に苦言を呈した)私の発言が新聞などで拡大解釈されました。企業の中には「よくぞ言ってくれた」という人が結構いましたが、私はわが社について言及しただけで、豪州企業を代弁したわけではありません。
――オーストラリア人労働者は他国労働者に比べて怠惰だという見方があります
それは一般論で、私には抵抗があります。現場では、ざっと見て9割はまじめな労働者です。1割ぐらいは問題のある人がいるかもしれませんが、それはどこの国でも同じです。まじめでない人は日本にもいますし。ただこの国は組合が強い。組合による労働者保護は他国より強いかもしれません。それに仕事を長時間やる面では、日本人のように日常的にはしませんね。家庭を犠牲にしてまでやるというのは日本人特有ではないでしょうか。
――最近部品大手のオートドムが操業停止しましたが、その影響はありましたか
ビッグ3(トヨタ、GMホールデン、フォード)の中では影響が一番少なかったです。社内調達部の一部屋を「リスクルーム」と呼んでいますが、そこで危なそうなサプライヤーを管理しています。サプライヤーが危なくなると、別の部品調達を準備したり、在庫を増やしたりします。オートドムの場合は、事前に調達部がリスクを踏まえて、対応していました。準備の差が、他の自動車メーカーとの差として出たかもしれません。
――自動車3社が政府から巨額の補助金を受けていると騒がれています
国が自動車産業はいらないというならともかく、自動車企業が生き残りで必死になっている時に助けるのは当たり前だと思います。税金の無駄遣いという意見には同意できません。
自動車産業を持ちたいと考える国なら、どの政府も似たようなことをしています。タイなどでは、工場を建てる際は中央・地方政府共にプロジェクトを補助します。補助金支給だけではなく税制優遇、所得税の何十年かの控除など支援策もいろいろあります。
オーストラリアの自動車産業は今が一番底のようなもので、取り組みが上手くいけば(販売・生産ともに)立ち直るのではないかと思っています。
――例えばどんな取り組みでしょうか
去年から社内に、構造改革タスクフォース(Toyota Australia Future Business Taskforce=TAFBT)、通称「タフバット」を設けました。つまり「とても大変=タフ」「でも=バット」やらなければいけない、と(笑)。生産から販売全てを見直すコスト削減活動です。350人の解雇もその一環。今の為替環境の中で生き残れるように。20年のスパンで見ると豪ドル相場は1米ドル=80豪セントが平均。今は全然儲かっていないが「強じんな体質を作れば製造事業も儲かる」のが持論で、25%コストカットします。今は15万台の生産規模ですが、8万台でもやっていける体質を目指しています。
再度の大規模な人員整理はやりたくありませんが、効率を上げて全人件費を下げることはできます。工場労働者の高い給料は、歴史的な背景もあるので、今さら直せないのも事実。ただ正社員と契約社員の比率がアンバランスなので、契約社員を3割に増やして、柔軟性を持たせる方法もあります。
わが社内では「カイゼン」や「ネマワシ」などのトヨタ用語が日常的に使われています。そんな国はあまりないでしょう。オージー社員が他社の社員と話すと、トヨタ用語がどんどん出てくるので、相手はキョトンとしていますね(苦笑)。タフバットは17年に最終目標を達成する予定です。
――タフバットに政府への働きかけは含まれていますか
自動車政策の長期的安定のため、政府や政治家へのロビー活動もします。政党が変われば政策も変わるでは困ります。
アルトナに新エンジン工場ができました。自動車は4~5年でモデルチェンジしますが、エンジンは10年スパン。だからその途中で排気量に応じた税金が変わると困ります。
政治家は豪州にとって製造業が重要だと言います。ラッド前首相は就任時に「モノを作らない国の首相にはなりたくない」と言っていました。補助金支給に批判的な野党のアボット党首が政権を取ると、労組問題は柔軟になるかもしれませんが、直接投資に対する補助金は減るかもしれません。しかし両政党共に、製造業を維持することの意義は共有していますし、アボット党首からは「自動車産業は豪州に必要だ」とコメントももらっています。
またハイブリッド車に対する補助へのロビー活動も行っていますが、現地生産車だけでなく、輸入車も対象にするのでまだ難しいようです。欧州は自国自動車産業に対する政策はうまいので、GMとフォードが作るLPG車とトヨタのハイブリッド車への補助が豪州にあればいいと思います。
――炭素税の影響は
工場稼働時に発生する二酸化炭素と、カーエアコンの冷媒に使用するガスに応じた炭素税を7月から払い始めましたが、結構な額です(苦笑)。現状の炭素税の1トン=23豪ドルは高いと言わざるを得ません。10豪ドル前後の欧州と同じ水準にしてもらいたいところです。政府は炭素価格は今後上がると言いますが、個人的には下がると思います。
――環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)についてはどうですか
個人的には賛成です。製造現場から言うと、TPPは関税フリーで競争相手が入ってくるのはきついですが、関税は5%だから為替の振幅の方が影響は大きいです。トヨタは現地で生産していますが、部品を輸入しており、関税ゼロで入ってくるのはありがたい。一方、豪ドル安になれば、現地生産車を中近東に輸出しているわれわれには追い風です。日本人としては農業の話もありますがやって欲しいです。
――中国や韓国車は脅威でしょうか
長城汽車(グレートウォール)などは年1万台を売っているそうですが、なぜそれだけ売れるのか不可解です。やはり価格が魅力的なのでしょう。ディーラーは、将来中国車が多く入って来る時の備え、リスクヘッジとして取り扱い始めていると聞きます。中国の技術力の進展は加速しているので、将来的に脅威にはなり得ると感じています。
――豪トヨタの将来の展望は
わが社はカムリを生産輸出しているだけでなく、メルボルンには技術開発センターもあり、カムリやその他モデルの研究開発を行っています。
カムリを作る工場は世界に7~8カ所あり、生産・輸出割り当てもトヨタ子会社同士の競争です。4~5年で競争力の相対ポジションが変わる可能性があるので、米国のカムリに負けないという姿勢を示さないと。われわれが現在年6~7万台、多くて10万台出しているカムリも、他国に置き換えられるかもしれません。そういう危機感を持って、原価低減や収益改善に取り組んでいます。
カムリの中近東輸出はわが社の生命線なのです。これがなくなったら台数が半分以下になる。年3~4万台の生産では、工場稼働はきついでしょう。
これからは中国も含めてアジアです。インドネシアもインドも伸びる。米国のリカバリーとアジアの成長、そして中国といかにうまくやるかが、トヨタのこれからの課題です。豪トヨタは「豪亜(豪州・アジア)」という括りで、リージョンに貢献できないかと考えています。その一つにエンジンをタイやマレーシアに輸出するプロジェクトがあります。私の夢は、豪トヨタをリージョンのハブにして、カムリをアジアに輸出することです。
――豪州市場への現地生産モデルの投入予定はありますか
もう1車種投入したいと考えています。カムリ1車種だけだと、5~6年スパンなのでモデルチェンジの間が長すぎます。この国は各社が実に多くのモデルを投入していますが、1モデルで2~3万台売れる車種が少ない。ハイラックスが年4万台売れているのでここで作ってみては、というアイディアもありますが、コスト競争力が問題。追加モデルの投入はまだアイデア段階で、まずは今のコスト削減策が上手くいってからですね。それでも、長城のピックアップトラックのような価格まで下げるのは無理ですが。
もう一つのアイデアとしてカムリと同じプラットホームで作れるクルーガー(ミディアムSUV)もいいかもしれませんが、豪州で年2万台弱ぐらいしか売れていない。あとはカローラかRav4。小さい車は採算をとるのが難しいので、ある程度値段が取れる車で狙っていきたい。
日本からの輸入モデルで言えば、プリウスファミリーのハッチバックやミニバン、レクサスなどハイブリッドの品揃えがかなり充実してきました。今年は年初にカムリとオーリオンが出て、ヤリスが新モデルに変わった。今年は新車の当たり年になりましたね。(了)
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