１９８７年（昭和６２年）４月１５日（水）　モスクワ

　私たちの泊っているコスモスホテルは、時々国際会議などが催される大きく高級なホテルだ。モスクワフォーラムに参加した大江健三郎も泊まっている。ロビーは外国人でごった返していた。必ずしも偉そうで金持ちそうな人ばかりではなく、学生の団体や私たちのようなバックパッカーらしき人もいた。
　ここでの共通語が英語で、土産物屋では外貨しか使えないところがおかしい。アメリカ国内で観光客はロシア語で話し、ソビエトなど東側諸国の通貨で払えとは言わないだろうから。

　モスクワは２泊にしたから、今日一日自由に使える。できれば自分たちだけで市内観光したいが、今ここがどこでどうやったら赤の広場やクレムリンに行けるか分からない。モスクワ市内の地図も売っていたが、一人５ルーブルのツアーに参加することにした。

※当時のレート　１ルーブル≒２３１．５円
　午前の部は終わっていて、午後の部が２時からだ。出発がホテルインツーリストからだったので、場所を教えてもらった。その時メトロのマップをもらったから、なんとか自分たちだけで行けそうだ。市内をウロウロしたかったから、集合の２時間前に出た。

　地下鉄の料金はいくらか夫と推測した。夫は20、私は15コペイカ。二人とも間違い、５コペイカだった。安い！さすが共産国。※１ルーブル＝１００コペイカ

　５ペイカ玉をいれ、長いエスカレーターを下りる。ロンドンより深そう。構内は整然としているが、広告のポスターとかないから殺風景だ。車両はスペインマドリッドかローマ並み。ほとんど字が読めないが、アナウンスと人の動きでなんとかたどり着いた。冷静に観察すると「出口」の文字がわかった。

　駅を出て辺りを見回し、見当つけて歩いたらホテルインツーリストがあった。出発までまだ時間はたっぷりあったから、あちこちの店をのぞいて行く。中国「第一百貨公司」の雰囲気。接客態度はよくない。レジで列を作って並びやっと手に入れるようだ。路上に露店があって便利そうだ。完全に供給より需要が上まっている感じだ。

　ちょっと洒落たカフェで昼食。中国の餐庁よりきれいだ。後ろの人もたまたまツーリストで、いっしょにチャイが一杯1コペイカとメニューを解読した。何て安いんだろう！
　

　市内観光ツアーの参加者はバスの３分の１程度しかいなかった。行ったのはすぐ近くのクレムリンやカテドラルの周り（中には入れなかった）とお墓、モスクワ大学のそばの展望台と３か所だけ。とりあえず一通り見て回っただけ。

　そもそもソビエトに行けるか半分疑っていたから、何の下調べもしていない。どこに何があるのか、あいさつや数など基本の言葉さえ知らない。まぁ、インツーリストが見せるところは、きれいでいい所しかないだろう。

　私はふつうに道を歩いている庶民を観察した。歩いているとバッチと交換してくれという青年がいたり、ホテル内でカセットテープを売ってくれと言われたりした。交換ならいいかもしれないが、売ると罰せられるからやめたけど。もう一日あったら下町へ行ってみたかった。明日ホテルのインツーリストに来いと言われた。シベリア鉄道のチケットのことか。

　帰りにパンを買って、夕食は持ってきた缶詰やカップスープですませた。列車ではルーブルしか使えないらしいから、キャッシュは残しておこう。一泊１００ポンドもした部屋でゆっくりする。お湯をもらったお礼にチョコレート‘Kit Kut’をあげた。この国のお菓子はあまりおいしくなさそうだから。〈Cosmos　Hotel〉

モスクワの市内観光 地下鉄の料金がたったの５ペイカ（約１１円）、安い！さすが共産国

モスクワの市内観光　地下鉄の料金がたったの５ペイカ（約１１円）、安い！さすが共産国