11月22日記念突発的妄想文 | 独り言。時々暴走。

11月22日記念突発的妄想文

注意:「二次創作」という言葉をご存知ない方もしくはそのような活動をご理解いただけない方は、ブラウザバックをお願いします。

また、火村英生・有栖川有栖というキャラをご存知ない方もお引き取り下さい。(知らない人が読んでも意味不明ですからね。)

以上を踏まえた上での閲覧をお願いします。



























突発的SS


布団から出た首が、真冬のような寒さに晒されるのが嫌で、もぞもぞと小さく丸まっていると。


「アリス、起きろ」
布団越しに身体を叩かれた。

「起きないと、遅刻するぞ」
「ん…あと三分…」

淡々とした調子で起きろと繰り返すバリトンが耳に心地よくて、自然と緩んだ頬を隠すように布団の奥へ潜り込もうとすると…。


「いい加減にしろ」
思い切り掛け布団を剥がれた。


「なにすんねん火村!寒いやんか!」
「さっさと着替えれば寒くない」
そう言いきった非情な友人・火村英生は、剥いだ布団を投げてよこした。

「俺はちゃんと起こしたからな。二度寝して遅刻したら、アリス、お前の責任だぞ」
不承不承寝巻きから腕を抜いて着替え始めた私を確認し、火村はくるりと背を向けた。



**

「起きろよアリス」
遠くから、起床を促す声が聞こえる。

起きてるやろ!と言おうとしたけれど、視界が塞がっていて声も出ず、先程起こされたのは夢の中でのことだったのだと知らされた。



「アリス」
自分の名を呼ぶ声に誘われ、意識が浮上した。

ベッドの傍らに立っているのであろう、火村の声。



「アリス、いつまで寝ているつもりだ?」
休日なんやし、もう少し寝かせてくれや。

心の中でそう呟き再びまどろみはじめると。

「アリース」
私を呼ぶバリトンに不機嫌な色が混じり始めた。

「そっちがその気なら仕方ないな」
布団を剥ぎ取られるかと身構えると。



「俺は帰る」
ベッドの傍から離れて行く気配がする

「…は?」
何言うてんねん。暇を持て余して家に転がり込んで来たのは火村、君の方やないか。

思わず眼を見開いてしまった。

急に開いたせいでチカチカする眼が、部屋の明るさに慣れたところで火村の顔を見上げると。

「狸寝入りをしていたとは思わなかったぜ」
ひっかかったな、と意地悪く唇の端を吊り上げてこちらを見下ろす火村の姿があった。

「アホか。君の突拍子もない行動にびっくりして一気に目が醒めたところや」

「目が覚めたなら、さっさと着替えろ。飯が冷めるぞ」
「え、火村が作ってくれたんか?」
「ああ。料理は一人分作るより二人分作る方が楽だしな」
「至れり尽くせりやなぁ」
早く着替えて火村の手料理を堪能しようと、嬉々として身体を起こすと。

「…寒っ。何やのこの寒さ。秋やのうて真冬なんと違う?」
「アリス、お前毎年この時期になるとそういってるぜ」
「…そうかも。目覚まし一つでは起きられん時季になったなぁとは思っててん」
「そのうち一人で起きられなくなるんだろ?」
「おっしゃる通りで。当の本人よりよう知っとるなぁ」
「学校ある日は俺が起こす役を仰せ付かってたからな」
「…そうやったっけ?」
「起こし方が悪いっていちいち不機嫌になっていたのはどこの誰だ?な、アリス?」

とぼけてみせたけれど、ごまかすなとでも言うように軽く小突かれた。

「寒い思いさせられて喜ぶ趣味はあらへんし、しゃあないやろ」
「俺も人を不快にさせて喜ぶ趣味はないし、そのせいでアリスの機嫌が一日中悪くなるのもゴメンだ」
「俺が機嫌が悪くならないように工夫した結果が、コレか?」
「まあそんなところだな。
お喋りはこれぐらいにして、そろそろ着替えろ。早くしないと先に全部食べちまうぞ」
「それはいやや」
私がベッドから出たのを確認すると、火村は部屋を出て行った。




「…火村、成長しとったんやなぁ」
私は一人ごちる。

記憶の中にある出会った頃の火村と今の姿を比べてみても、若白髪の数が増えたぐらいであまり変わっていない印象がある。

十五年の間に印象は変わっていないが、私の扱う事にかけて彼は格段に上手になったと思う。

私だって、火村が私の名前を呼ぶその調子から、感情が表に出にくいその顔のわずかな変化からも、機嫌の良し悪しが判断出来るようになった。


自分が起こす行動に対し、相手がどう反応するか予測する。その予測は、手持ちのデータの量によって、精密度が変わってくる。
その点では、火村と私の互いに関する予測の精緻度はかなり高い。

十五年分の膨大なエピソードを共有しているから。



「アーリース」
急かすような声がして、私は慌てて着替える作業に集中する。

「あと十秒!」
そう叫んでズボンに両足を突っ込み引き上げにかかる。

容赦なく始まったカウントダウンが三を数えたところで、隣のリビングに飛び込んだ。

リビングは、いい匂いに包まれていた。

トーストと共にスクランブルエッグなどが添えられた、ブランチというにはささやかなものであったが、私の好きなメニューが並んだテーブルに、自然と頬が緩む。

「遅い」
冷蔵庫の扉を閉めた火村がテーブルに戻って来たのを見計らって椅子を引く。

「宣言通り十秒以内に着替えたで」
私は、自分で好きなだけ砂糖を入れられるように砂糖壷が添えられている、湯気の立つコーヒーの前に。

「五秒で一カウント取ってんだから、ズボン穿くぐらい二カウントで終わらせろよ」
火村は、白色が勝っているコーヒーの前に。

私達は同時に腰を降ろし、いつものように言葉の応酬をしながら食事をした。



二人の共有する数え切れない行動予測データに、また一つエピソードが加わった。

+了+

…ショートショートの域を完全に超えてるだろ、この長さ。



というわけで。

「良い夫婦の日」という語呂合わせに触発された、妄想文でした。

ここまでお付き合いくださいました方に、御礼申し上げます。