少し早いですがクリスマス向けのコンテンツをアップロードします。 オー・ヘンリーの有名な短編です。彼の作品は教科書や副読本によく採用されていますので、原文に接したことのある人も多いかと思います。この物語は貧しさが生み出した悲しいすれ違いの話として受け取られることが多いようですが、作者の文体はもっとドライです。それは、エンディングの文章で明瞭に示されています。この二人をtwo foolish childrenと呼んでいるところは「やっちゃったね」と暖かい目で見ているようですし、また自分の大切なものを犠牲にしても相手に喜んでもらおうという二人をthese two were the wisestと称えています。 ちょっと話題がそれるのですが、この物語を別の視点で眺めてみましょう。この小説が発表されたのが1905年で、この中でジムは二十二歳という設定になっています。つまり、この時代の米国青年は、大学はおろかハイスクールも満足に卒業せずに働きに出ていたことになります。実際、1910年のデータでは、若者のうちハイスクールを卒業したのはたったの9%です。その後、急激な経済発展で「ハイスクール・ムーブメント」というものが起こり、1940年には若者の50%以上がハイスクールを卒業するようになりました。 米国の喜劇作者として有名なニール・サイモンの代表作の一つに『ブライトン・ビーチ・メモリーズ』があります。舞台は1937年の大恐慌時代で、場所は『賢者の贈り物』と同じニューヨーク。十五歳の少年だったニール・サイモンの目を通した家族の愛と葛藤がコメディとして描かれた秀逸な戯曲です。その中で、寡婦でサイモン家に身を寄せているブランチが、ハイスクールを辞めてブロードウェイのダンサーになりたい娘のノラを説得し、なんとかハイスクールだけは卒業させようとします。また、主人公の兄アンソニーが家計のためにハイスクールを中退して働きに出ようとしますが、父親のジャックはその計画を止めさせようと必死になります。つまり、ブランチやジャックはまさに「ハイスクール・ムーブメント」時代の申し子で、ハイスクールを卒業することこそ真っ当な人生を築くための第一歩と信じていたのですね。 もう一つ。多くの読者は「家計が苦しいのなら、なぜデラは外に働きに出ないのか」という疑問を持つでしょう。ジムは労働者階級に属しているのだから妻が働きに出るのは自然なことに思えます。1900年の米国データでは、女性全体の就業率は20%なのですが、既婚女性にかぎるとわずか5%程度です。アフリカ系は就業率も高かったようですから、白人の既婚女性はほとんど働いていないことになります。ジムとデラは労働者階級ではあったものの、主婦は家庭にいて夫を支えるものという伝統的価値観に支配されていたわけです。産業構造が全く異なるので日本との比較は難しいのですが、同じ1900年代の日本では、一次産業の従事者は女性が労働に参加するのは当たり前で、行商などにも積極的に出て家計を助けていました。都市部の中流階級では、家庭にいてもいわゆる内職という形で働く女性が多かったようです。マッチ箱作り、ラベル貼り、靴下の縫製、ハンカチの刺繍、着物の仕立てなど、家事の合間に出来る仕事は多くありました。 日本初の女性首相が「働いて、働いて、働きます」と発言して問題になっていましたが、日本の女性は昔から働き者だったのだなと思います。