
午前十時。
僕は二階のベッドで目を覚ました。
一階のテレビのアナウンスから「シアトル」と「ニューヨーク」という単語を寝ぼけまなこの耳が拾う。
寝ぼけたままにiPhoneでメールのチェックを行い、流れ作業でtwitterを見る。
イチローのヤンキース移籍は伊集院光のtweetで知った。
勿論移籍には驚いたが、何より頭と身体が急に目覚めたのは、マリナーズとヤンキースが今日試合をするというニュースを知ってからだ。
11年半慣れ親しんだセーフコフィールドを舞台に、今日イチローがヤンキースのユニフォームを着てプレーをするという現実。
デレク・ジーター率いるTop Of The Topの集団。それがヤンキース。
そんなヤンキースが陣取る3塁ベンチから飛び出すイチロー。
それを追いかけるメディア。
見つめるマリナーズベンチとマリナーズファン。
ドラマチックな瞬間があと一時間後にスタートすると思うとゾクゾクした。
この時点で既に1時間遅刻していたゼミの集まりに、2時間以上の遅れて参加することが決定的となった。罪悪感と興奮が入り混じった、そんな特別な1日の始まりだった。
一階に降り、直ぐにBSにチャンネルを合せる。
イチローの会見が映し出される。
目に浮かぶ涙。いつもよりも少し上擦った話し方。
この会見を見た人々は何を感じたのだろうか。
これから先、様々な記事や特集がこの移籍や、「イチローの本質」を推測する日々が続くだろう。だがしかし、それは結局のところイチローにしか分からないことを、ある一定のラインまで迫り、そのラインの近さや角度から「新たなイチロー像」として築いていく作業でしかない。
勿論それはそれで面白い。
でも結局のところ、「本音は分からない」のがイチローであり、それはイチローと彼以外の人間の約束事みたいになっている。
それならば、僕はこの歴史的な一日を受けて、日本やアメリカを始めとするベースボールファンが何を感じ、何を想ったのか、この出来事を何に繋げていくのかを知りたいと思う。
(移籍を受けて普通に生活してる人達の意見とかをまとめた本が出たら買うな。多分。)
僕は今日の会見やプレーを見て、イチローがファンに対し抱く熱く特別な感情の一端に触れられたと思っている。
と同時に、イチローにとっての一番のファン。それはイチロー自身なのだろうな、とも思った。
彼が魅せる超人的なプレーは、常にファンの視線を意識しながら取組むハードなトレーニングからくる賜物だ。でも正直彼が想定しているファンの基準ってどんだけ高いんだよ、って僕なんかは思ってしまう。
昔何かのインタビューでイチローはこんなことを言っていた。
「ライトからの返球でカーブを投げて、ランナーを刺そうと思ってるんです。」
通常、カーブという球種はストレートより高い軌道を描いて目標地点に向かっていく。
つまりイチローが実現したいモデルというのは、普通に見たら暴投の軌道を見せつけ進塁のチャンスを与え、そこから急激な変化のもと油断したランナーを刺すということだ。
面白い。けど、これ無理なやつだよ。
イチロー以外は。
って感じじゃないですか?
ファンである僕らの意識を超越した部分で、彼はトレーニングに励み、自分を追い込んでいる。
それってイチローも半分自覚してるんじゃないのか?って思うけどね。
ナルシズムととてつもなくファンに寄り添う気持ちがグチャグチャなのがイチローなのかなぁ。
何だかんだで僕も「イチローの本質」やら「新しいイチロー像」みたいなモノを語ってて気持ち悪い感じ。やめときましょ。
今日は試合前の練習でヤンキースのチームメートと笑顔で堂々とコミュニケーションを取っていた姿とか、そ第打席でのスタンディングオーベーションに応えるお辞儀とか、胸に響くシーンがたくさん僕の中ではあったけど、皆さんどうでしたか。
やっぱりイチローは特別だな~と思いましたかね。
特別ですよね。
特別なんですよ。
色々と。

