福島原発の事故後、太陽光、風力など自然エネルギーへの関心が高まる中、太陽熱で湯を沸かす太陽熱温水器は、海外では導入が進む国も少なくないのに、国内での普及は一向に進んでいません。日本と海外の違いはどこにあるのでしょうか。太陽熱温水器の世界事情を調べてみました。
NPO法人「気候ネットワーク」東京事務所のスタッフ、桃井貴子さんは昨年10月に中国の長春市、大連市などを訪問。「想像以上に多くの屋根に太陽熱温水器が載っていました。」とのこと。新築ビルの屋根のほとんどに太陽熱温水器が付いており、百貨店でも、家電製品売り場の目立つ場所にさまざまな種類の太陽熱温水器が並べてあったそうです。太陽熱温水器は、集熱パネルで集めた太陽熱を利用して水を湯にする装置。太陽エネルギーの変換効率が太陽光発電の3~4倍高いのが特長です。ガスや石油などの燃料の使用を減らすことができるので、環境にやさしく、燃料代の節約にもなります。
経済成長でエネルギー需要が急激に伸びている中国は、風力をはじめとする自然エネルギーの利用拡大に懸命になっており、太陽熱温水器も国家戦略で普及を促進しています。今では4,000万世帯以上が使用しているものとみられています。
仕事で中国を訪ね、現地の業界関係者らと交流した太陽熱温水器メーカー「チリウヒーター」の岡本康男社長によると、価格は、標準的なタイプだと日本円で数万円程度と安く、日本ならこの4~8倍くらいが普通だそうです。「メーカーが何千もあり、トップレベルの企業の技術水準は世界的に見ても高い」、と岡本さん。
自然エネルギーに関わる世界各国の機関などが参加する「21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク」がまとめた「自然エネルギー世界白書2011」によると、太陽熱温水器の設備容量は、中国が世界全体の6割強を占めて、際立っています。次いで、ドイツ、オーストリアなどの西欧諸国やトルコ、ギリシャ、イスラエルなどの地中海周辺の国々が続きます(右表参照)。人口一人当たりの設備容量では1位が地中海の島国であるキプロスで、2位がイスラエルです。こうした国々で普及が進んだのは、推進政策によるところが大きいのです。同白書は「新築建築物への太陽熱温水器の設置義務づけが国レベル、地域レベルで大幅に増えている」と指摘しています。この政策をイスラエルがいち早く実施し、スペインやインド、韓国、米国ハワイ州などが同様の制度を導入しました。ブラジルでも近年、普及が急に進み始めました。公営住宅に30~40万個の太陽熱温水器を導入するプログラムを開始したのが原因です。
日本では、第二次石油ショックの翌年の1980年にブームがあり、年間設置台数が約83万台に上りました。その後はほぼ右肩下がりで、近年の設置台数はピーク時の20分の1ほどの水準まで落ち込んでいます。家庭用の給湯器具の売り込みに電力、ガス業界が力を入れ、弱小な太陽熱温水器メーカーが販売競争に敗れた結果です。また、日本の政策の支援策も弱いままです。
福島原発の事故以降、産業界では電力不足の解消が最優先課題であることは間違いないのですが、家庭部門においては「何でも電気」という方向が、「非電化~電気に頼らない生活」でとシフトする視点が重要になってきます。とりわけ「暖房や給湯は貴重な電気や化石燃料を大量に消費しなくても、太陽熱で大半を賄える」のです。
(2012年2月6日、東京新聞朝刊19面「エネルギー再考」より転載)


