K夫人のドクハク

人は私の事を影で馬鹿になさっているのは存じ上げております。
私だって正直なんでここまでやらなければならないのか、自分の愚かさに泣く夜もございます。
主人だって呆れていますわ、何もあなたがそこまでやらなくて良い、断って構わないじゃないか、と。
実際主人が、いつまでも居座る方々をそれとなく引き上げさせてくださいますわ、そうして私はああ、良かった。と思うのです。
じゃあ無理せずに突然の来訪者を受け入れず、流してしまえばよろしいのでは?とお思いで?
ええ、私だってそう思います。
でもなんでしょうか、楽しそうに来られて我が家でリラックスされている様子を見ていますとなんだか何かこう接待をしないと私がまるで犯罪者のような気持ちになりますの。
たとえちょっとお買い物に行こうかと準備している時に来られても、それは私だっておおいに迷惑ですわ、でもそうはいっても買い物に行くから帰って欲しいだなんて、とっても気が引けますのよ。だってそうじゃありませんか、折角気分よく来ているのに、じゃあもう良いよ、使えないな、なんて顔されたら、私、嫌われたわと不安になりますの。
相手からの迷惑と嫌われる嫌な感じを天秤に掛けると何故だか嫌われる嫌な感じが勝つんですの。
正直申し上げると、迷惑なんですから、嫌われて疎遠になる方が人生の為ですわ、でもなんでしょうか、嫌われたくないのです。
難儀な性格でしょうが、私はそうやって今まで生きてきましたのよ。夫を上手く使ってやってきましたの。
この程度の相手、なんでもございませんわ。ただ、うちのお犬が少々気に入らないらしく、件のお客様方にだけ突っかかって、吠えるので、人が心配する程長居はしませんのよ、ほほ。
それに主人も30分と待たずにお帰りになられたら、というものですから、あちらとしても1時間くらいで居ずらくなるようで。
あら、そんな事を言っていたら来ましたわ、あらあら。
まぁ、良いですわ、今日は私、機嫌が良いですから、いつもの安いお茶とお茶菓子をいつもより素敵な器に盛って差し上げましょう。
うふふ、上等だなんて、喜んでいるのを見ているのは、退屈な生活のほんの少しの潤いですわ、今日も相変わらずお暇そうに来ていらっしゃいますのね。
あら、いらっしゃいませ、ええ、主人はもう少しで帰ってきますの、あら、上がって待たれますか…。
ではいつもの部屋へどうぞ。
ええ、客間や居間などには通しません。
うふふ。