忘却の彼方に あの人の面影を見る

 

付き合いも長かったのに あの人との 歳の差は覚えていない

 

年下である事は覚えているが 精神的には 私より上

 

何もかも 知ったような顔をしていた

 

渋谷で ロシア料理の店に入った

 

初めての私に ロシアンティーを勧める

 

居心地の悪さと 二人だけでいる幸せとが 交互に訪れる

 

なぜ渋谷だったのか 全く記憶にない

 

そして再び 渋谷

 

道玄坂にある 台湾料理の店 麗郷

 

なぜあの人は こうしたいろいろな店を 知っているのだろうか

 

しばらくして あの人は 大学の研究室に入った

 

あの人の家の部屋には 小さなクラゲがいた

 

小さな 小さな 見たこともないクラゲだった

 

その部屋には ご両親に挨拶をして 何度も行った

 

ただ居るだけで 幸せな時間だった

 

2年ほどして 別れが来た

 

そして半年後 あの人が結婚した事を聞いた

 

なぜ 踏ん切りを付けなかったんだろうか すべては私の責任

 

その後 10年経っても 20年経っても あの人の夢を見た

 

そこにいるはずの あの人の家に向かうが どうしても会えない

 

夢と 地図とを照合する

 

そこは 全く行った事のない場所で いつも背の高いススキが出てくる

 

私が結婚して しばらくして あの人は私の職場に現れた

 

ニコニコと 笑顔で近づいて来る あの人

 

何処で聞いたか 私の結婚を あの人は知っていた

 

固まる私は 何も話せないでいる

 

50年も経ち あの人の写真が出て来た

 

二人で 楽しそうに クリスマスパーティーに参加している写真

 

あの日に戻れるなら もっと何かを 言えたのだろう

 

何もかも あの人の主導で 出掛けていた事を 恥ずかしく思う

 

渋谷 箱根 鎌倉 京都と・・・