惜別の歌  作:島村藤村

 

カーキ色の 綿のザックを 背負って出掛ける

人は皆 カニ族と呼んだ

 

いつも使うザックは 

雨の匂いも 草の匂いも 汗のにおいも

全てが入り混じって 男の匂いがした

 

綿の ストライプ柄の 長袖を着て

ジーンズに キャラバンシューズ

首には バンダナを撒き

頭にかぶるのは 麦藁帽を カーボーイハット風に

 

すれ違う旅人には コンニチハ と挨拶する

ただそれだけ

長い 一本道を歩く

蝉が うるさいように 鳴いている

 

今日の泊りは 久し振りに ユースホステル

会員証には スタンプが48個

あと2回泊まれば 銀バッチだ

 

そんな男が 21歳の若さで死んだ

それは 2時間半ほど登った所にある 湖

彼は 仲間の女の子たちの荷物を

気さくに受け取り 列の 一番後ろを登って行った

 

行方不明の連絡が 東京に届いた

家族が 現地に向かったのは もう夜中だった

山の上に 潜水士が到着する

翌日 湖の真ん中に 彼が浮かび上がった

 

家族と 仲間たちで 湖のほとりに 碑を立てた

湖を見つめながら 皆で キャンプファイヤーを焚いた

誰ともなしに 惜別の歌を 歌いだす

 

♪遠き別れに 耐えかねて

この高殿 のぼるかな

悲しむなかれ わが友よ

旅の 衣をととのえよ

 

♪わかれと言えば 昔より

この人の世の 常なるを

流るる水を ながむれば

夢はずかしき 涙かな

 

わたしが 中学三年の 夏の事だった