『明日逢いたいから、約束していた友達には遅く来てもらうようにするね!』

彼女が嬉しそうに電話ごしに僕にそう伝えた。


最近忙しい仕事の合間をぬって、彼女の家に犬の餌を届けに行く約束をしたのだ。

毎日忙しい中でも彼女の為に何かが出来ることはとても嬉しい。

彼女の為なら何でもしてあげようといつも考えてしまう。


でも、だからいけないのかも知れない。




午前中の仕事を終え昼休みに突然入った仕事も、彼女を優先してキャンセル。少し悪い気もしたが、ごめんなさいと心で謝って彼女の家へとハンドルを握り締めた。


コンビニで彼女の好きなつけ麺(辛めのしかなくて、彼女は辛いの平気かな・・・)とチキンを買って、短い昼休みを最大限に彼女との時間に費やしたくて、大急ぎで彼女の家に向かった。



家に着いて合鍵でドアをあける。


『あれ?おかしいな・・・』

いつもは狂ったように吠え叫ぶ犬が全く吠えない。


嫌な予感が胸をよぎりつつ、彼女のいる部屋へ。



部屋に人の気配はない。

ベッドにはぐしゃぐしゃになってまるまっている布団が一枚。

昨日の夜から自宅に帰ってきてない事は一目瞭然だった。



今までの記憶が走馬灯にようによぎった。

こんな事は初めてじゃない。

昨日はどこに泊まったの?今はどこにいるの?


何度も何度も裏切られ、男に寝取られ、それでも好きで離れられなくて、彼女も俺を求めてくれて。

・・・最近は上手くいっていたんだ。

とはいうものの、ほんの2ヶ月前まで彼女はこの部屋で他の男性と同棲していたが。


まだその時の傷も癒えていない。




混乱する頭を少しでも落ち着かせようとベッドに腰を下ろした。

落ち着こうと思うえば思うほど鼓動が速くなる。


『はやく出て行かなきゃ・・・』


ここで気持ちをフラットに出来るほど自分は出来た人間じゃない。



もう傷つきたくない。もうつらい思いはしたくない。お願いだからそっとしておいて欲しい。


彼女が他の男性と寝た事を告げられた時。

彼女の部屋で使いかけのコンドームを見つけた時。

彼女が知らない男性と海外旅行に行った時。

彼女の携帯から他の男の家に泊まりに行っていた事が分かった時。

彼女が俺の知らない男性と同棲している事を告げられた時。

自分の心は何度も折れ、何度も壊れ、涙も枯れた。


もう限界なの。

これ以上は耐えられないんだ。

今までの辛かった思いが体からあふれ出した。



彼女のどこが好きなの?

彼女自身からも、周りの友達からも不思議がられる。

浮気性で、時間や生活にルーズで、女性らしさとはかけ離れた彼女。



・・・なんだろうね。でも何か期待してるんだと思う。

彼女はきっと俺の最高の理想の女性になるんだって。

何かを持ってるんだと思う。磨けばきっと光る何かを。



昨日は誰といたの?どこで朝まで過ごしたの?


伝えたい全部の気持ちが上手く言葉にできず、一言メールを送った。



『なんで』




なんでまた約束を破るの?

なんでまた裏切るの?

なんで連絡をくれないの?

なんで、なんで、なんで?・・・






帰り道。大音量でかけたラジオもほとんど頭に入らない。

午後の仕事もやる気になれない。



でもさすがに慣れてきたのかな?少しは成長したのかな?


彼女に『仕事お疲れ様。犬の餌はおいといたよ』って絵文字も入れてメールが送れた。


彼女がこの一連のメールを読んだら、きっと頭がこんがらがっちゃうだろうなって、そう思ったら少し笑えた。




午後も午前中同様すごく忙しかった。それが助けだった。

いつもは胸ポケットに携帯を入れて仕事する自分も、その時は携帯を充電器にさしたまま。



彼女から電話がこないのも寂しい。でも電話が来てもとる自信もない。






彼女はお前には助けられないよ。お前にそんな力はないともう一人の自分が言う。


でも、彼女を愛している自分がそれに反論する。




こんなせめぎ合いを3年間ずっとやってきたんだよね。


彼女はきっとこう言うんだ。


『これからはもっと頑張るね・・・』って。


そして俺はまたそれに期待をしてしまうんだ。



・・・。