茶道のお稽古は先生のご自宅と,市内中心部にある大学構内のお茶室の2カ所でありました. ご自宅は普通のアメリカの住宅ですが,中に立派なお茶室があるのです.そこには主に日本人とアメリカ人の主婦が通っていました.
また,大学のほうも一戸建てのきちんとしたお茶室があり,そちらでの弟子は学生が中心ですが,年齢性別国籍も多様な方が参加していました.
先生はわりとはっきりものを言う方でお稽古は厳しいのですが,さっぱりした気性で面倒見の良い方でした.アメリカという土地柄のせいか変に周囲に気を遣ったり不合理なしきたりなども無く,教室はいつも明るく自由な雰囲気でとても楽しかったです.
先生は英語と日本語の両方で教えておられましたから,日本人以外の弟子も多かったわけです. 先生の弟子のなかで最も優秀だったのは,もう10年以上茶道を続けているという男性方で,皆日本人ではないし,日本語にはあまり興味が無いのですが,茶道や日本文化への造詣はとても深く,教えられることばかりでした.
弟子達は熱心にお稽古をしつつ,イベントの時はいつもボランティアとして先生のお手伝いをします. イベントは主にアメリカの自治体,団体,学校などに依頼されて『お茶会』のデモンストレーションをして,その後参加者にお菓子と薄茶をふるまう,というもの. 弟子達は日本人もそうでない人も着物を着て,お手前する人・正客・次客・お運びなど実力に応じて役割を演じます. それを先生や説明担当者が英語で説明したり,質問に答えたりします. このデモンストレーションが非常にアメリカ人に人気があり,忙しいとき(桜の季節から初夏まで)は毎週末,時には平日も予約が入ります.
先生も弟子達もそれはうれしいのですが,前日から和菓子を作ったり(ニューヨークならともかくフィラデルフィアにまともな和菓子は無い.)当日も早朝から会場の設営や掃除などしなくてはいけないので準備が大変でした.
しかしタローはおもしろがってお手伝いしていましたね. ある冬の日,近くの有名な植物園の巨大なグリーンハウスの中で日本のいけばな展があり,そこでお茶会のデモンストレーションをやることになりました. お花の中に作られた舞台の上で,大勢の観客に囲まれながら,ジャケットにネクタイ姿のタローが神妙な顔つきでお客様役をやっている写真があります. とても珍しい体験をしたといえます.
茶道教室ではタローと同年代の弟子はいませんでしたが,すてきな先生や仲間に出会えて茶道のたしなみも身につけ,ボランティアの経験もできて本当に幸運でした.
日本ではかえってこんな機会に恵まれなかったでしょう. その上,先生には推薦状も書いていただき,ボーディングスクールからの要求にも応えられたのでした.
そういえばもう一つ,課外活動をやっていました.それは『補習校』.主に日本人の子供のための学校です.次回はこれについてお伝えします.
つづく.