どんな犯罪者でも『有期刑』であれば刑期の終わりがあり、黙っていても必ず外の世界に戻ります。

ただ、ほとんどの長期囚が「今から考えても社会は変化するし、出所の数年前になってから考えればいいっしょ」のノリで、将来の事は深く考えていません。


そういう自分も刑務所に入所したばかりの頃は漠然と「出所後は小さな飲食店でも開いて、お金を稼ぐうんぬんより手の届く人を笑顔に幸せにしたい」と考えていました。


そんな中、今から約3年ほど前にたまたま工場担当職員から出所後の生活についての考えを聞かれ、上記の気持ちをそのまま伝えました。

てっきり「そういう生き方もいいんじゃないか」的な言葉が返ってくるのを想像していたら…

「いやだろ。金稼がなきゃ何もできないぞ」とバッサリ切られて「えっ!?」とびっくりして、思考が一瞬停止しました。

すると「まず目標が小さいよ。人生100年時代だぞ!出所してからの方が人生長いんだから、もっとデカい目標持てよ。犯罪者だからって稼いじゃいけない決まりなんてねーぞ!」と畳みかけられるように言われ…

ガツーンと後頭部を殴られるような強烈な衝撃を受けたのです。


まさか公務員である刑務官から「金を稼げ」なんて言葉が出てくるとは全く思っておらず…

さらに「いつまでも運動ばっかしないでもっといろんな人と話をして社会の勉強をしろ!」とまで言われ、再びガツーンと。


大半の職員は「何人かで固まって、他人をハメるくだらない絵図を話してるなら、運動時間は体を鍛えろ」って考えが一般的な中…

この言葉は意外すぎました。


もちろん職員も「犯罪者として自らの罪を見つめ直す事は大前提」としてのアドバイスだとは理解していますが…

なんというか今まで見えてなかった世界が突然目の前に広がった気がしたのです。


その後も数日間、職員の言葉が頭から離れずしばらく考え続けました。

あれこれ考えていく中で、浮かんできたのが「飲食店をやりたい!って気持ちではなく…25年後の年齢や前科ありの経歴から、まともな仕事につけないし、食べていくために自分で店をやるしかない…って消去法だったのでは?」と言う思いです。


小さな飲食店も素晴らしい仕事だし、お店に来てくれる人を笑顔に幸せにできると思うけど、「初めから、あらゆることを諦めてなかったか?」って気持ちが出てきました。

とは言え、「お金を稼ぎたい!」と言うモチベーションはなくて、そこは1番にはなりません。

でも職員の言葉を反芻していくうちに、俺が本当にやりたいことって飲食店うんぬんではなくて…とにかく残りの人生をかけて、「1人でも多くの人を笑顔に幸せにしたい」これに尽きると気づくことができたのです。


そこに気づいたのと同時に「じゃあ、その目標を実現するには飲食店にこだわる必要はないし、もっともっと色々な形があるはずで、ある程度のお金を稼ぐことで…そのやり方の幅も幸せにできる人数も増えるじゃん!」とパッと一気に道が見えたのです。


さらに自分自身の生活がギリギリじゃ他人を幸せにする余裕なんてないし、再犯を防ぐ観点からも、生活基盤になる収入の安定は重要な要素だと思います。


そして何より…直接、被害者の方々には償いはできないけど、収益の一部を『犯罪被害者支援団体』に回すことも1つの償いの形だと考えています。


そんなこんなの出来事があり、それからビジネス書を片っ端から読んだり…元実業家の懲役から色々な話を聞いたりと生活は一変しました。


たいした社会経験もない状態で逮捕された犯罪者が起業し、会社を経営して…1人でも多くの人を幸せにしたいなんて馬鹿みたいな夢に聞こえるかもしれません。

でも、これが自分自身で本気で考えて見つけた目標であり…刑務所にいようが、出所が遥か先だろうが…今できることをやり続けるしかないと思っています。


現段階でどんなビジネスをやるかは大枠のコンセプトしか見えていないけど…1つだけ言える事は、お客さんはもちろん、一緒に働いてくれる仲間やその家族も幸せになってくれるような事業をやっていきたいです。


今回も読んでいただき本当にありがとうございました。

感謝しています。

@懲役25年受刑者