リーメンシュナイダーについて書いていて、自分の好きな像はどれだろうかと考える。幾つもあるが、ミュンナーシュタットのプレデッラの4人の福音史家の内から一人を選べと言われると、多分マタイではないと思う。憂い顔のルカあたり？

しかしここではマタイを取り上げたい。1490-92の作品

マタイの視線の先には、彼に神の言葉をささやく天使がいたはずだが、今は失われている。

この主題で描いた作品でまず思いつくのはカラヴァッジョ。それも第二次世界大戦で焼失した書き直す前の作品。1602年

さらにレンブラントも落とせない。16161年、ルーブル所蔵。

こうして見ると、マタイは福音書を執筆中なので座ってペンをとって紙に(羊皮紙？)書いているのであまり独創性が発揮されないが、天使はなにしろ通常目に見えない存在であるし、そこをどのように表すのかが、作者の腕の見せ所。カラヴァッジョの天使は、マタイの手にみずからの指をおくというおせっかいぶり。右脚もどこに伸ばしているのやら。レンブラントの天使は耳元でささやく。この魅力的な天使は、画家の息子のティトゥスがモデルだという。根拠なき勘だが、レンブラントはカラヴァッジョのこの作品を知っていたのではないかという気がする。角度は違え、この親密な身の寄せ方に似た雰囲気を感じる。

　そこでリーメンシュナイダ―だが、カラヴァッジョ、レンブラントより100年以上も前、ドイツのヴュルツブルクの工房で作られた。イタリアルネサンスの波は伝わっていたのだろうか？　それはともあれ、端正な作風はリーメンシュナイダーの真骨頂、カラヴァッジョやレンブラントよりずっと落ち着いて見える。けれどこのマタイは、単なる迷いなき聖人ではない。目には見えない天使の声を必死で探す人間。筆記用具はも失われているが、この構えでは、書いているところではない。書く前、頭の中で形のない何かを作り上げようとしている、そこに惹かれる。

福音史家マタイと天使