第二十二章「出逢いと、別れ」
 
 五月二十五日、僕ら仲良し三人組と、保奈美先生は、放課後、教室に残るように、山冨先生に言われた。
 そして、午後三時十二分ごろ、山冨先生が教室に入ってきた。そして、
「すいません、お待たせしました。ジュースでも飲みながら、ゆっくり話そう。
保奈美先生は、珈琲と紅茶、どちらがいいですか?」と明るく言った。
 この日の山冨先生は、白のポロシャツに、紺色のズボン、白のスニーカーという服装だった。
また、外には太陽が輝き、よく晴れていて、あまり風のない日だった。
そして、僕たちは、一息ついた。
 それから、山冨先生は、優しく
「この前は、僕の初恋の話をしたね。あの話を聞いて、君たちは、どう思いましたか?
 人生というのは、だいたい八十年ぐらいある。
その長い年月で、沢山の出逢いと、別れを体験すると思う。それは、仕方ないことです。
だけど、大事な人と過ごした時間は、決して無駄にはなりません。なぜなら、自分の心を豊かにしてくれるからです。
泣くことも、笑う事も、喧嘩する事も、仲良くする事も、全て心を成長させてくれます。
是非、沢山の人と会って、話をして、一緒にさまざまな体験をしてください。そして、器のでかい人に、なってください。」と言った。
 すると保奈美先生が、
「へぇー、山冨君が初恋ねえ。その彼女から、何を学んだのかしら?」と笑って言った。

 山冨先生は、ちょっと、しまったなという顔をした後に、
「保奈美先生、僕でも恋ぐらいしますよ。
彼女から学んだ事は、沢山あります。
明るい人でも、悩みがあるという事や、大事な人と過ごせる時間のありがたさとか、人と関わる事の面白さとか。それから、僕を好きになってくれる人が居るのだと気づけたのも良かったです。
 また、逆に、フラれたり、もう会えなくなった事にもきっと意味があると思います。人の傷みがわかるようになりましたし、次に付き合う人には、ちゃんと気持ちを伝えようと思えるようになったからです。
今、僕は、舞子ちゃんに感謝していますし、彼女の幸せを願っています。」と言った。
 僕は、「なるほど、そうですか」と言った。

 それから、山冨先生は、穏やかに
「君たちは、僕が君らに出逢えた事を、たまたまだと思いますか?
これは、偶然なんかじゃないんだよ。
僕は、保奈美先生に助けられたから、先生として、この学校に戻ってくることにした。
そして、元いじめられっ子だから、いじめられている子が居たら、絶対助けると決めていた。
だから、次郎君と今、こうやって話している。
全部、僕が選択してきたことなんだよ。
僕が言いたい事は、君に会いたいと思ったから、会えたという事です。
そして、人生で会う人には、何かしら意味があるという事です。
なので、自分と関わった人との時間を、できる限り大事にしてください。
今は多分、この話が、よくわからないかも知れない。
だけど、君たちが卒業した後に、担任が保奈美先生だった事の意味や、僕が今、話した事の意味がわかると思います。」と言った。
 そしたら、保奈美先生が淡々と、
「何、一丁前の事言ってんのよ。この前までは、鼻水垂れた小僧だったのに。でも、まっすぐで、心優しい大人になったわね。」と言った。

 そしたら、山冨先生は苦笑いして、
「ちょっと、保奈美先生?いつまでも、ガキ扱いしないでくださいよ。
僕だって、成長してるんですから。」と答えた。
 僕は、この二人って、とても仲が良いんだなと思った。それと、裕や淳子と一緒に過ごせる毎日を、今よりもっと大事にしようと思った。

 そして、下校の時間になったので、僕ら三人は、帰った。
帰り道、僕は二人に、
「もし、別々の学校に行く事になっても、ずっと友達で居てください」と言った。
裕は、嬉しそうに、
「そんなの、当たり前だろ」と言った。
淳子は、笑って、
「うん、いいわよ」と言った。
僕はふたりに、
「ありがとう。優しいんだね。」と答えた。
心が暖かくなるのを、僕は感じたよ。