こんにちわ
やっぱり綺麗だね…
二月には鮮やかに咲く河津桜
昨年は悲しみと孤独と喪失感で足を向けることすら忘れていた
お兄ちゃんがね…もう一緒には来られなくなったの
6つ上の兄が…昨年の春 私を置いて逝ってしまった
いつも傍にいてくれて いつもいつも守ってくれたのに
「お兄ちゃんの嘘つき…いつも傍にいるって言ってたじゃない…」
「いつも一緒だって言ってたじゃない!! 嘘つき…嘘つき…」
深夜0時
公園に咲いている河津桜は月明りに照らされ妖しいムードを醸し出している
誰もいない公園で
毎年 兄と来た河津桜の下にうずくまって私は泣いた…
卵サンド…一緒に食べよう…
誰に言うでもなくコンビニで買った卵サンドを取り出す
『くれるのか?』
え…
いま…声が…聞こえた?
まさか…変質者?
『おいおい そりゃないぜ』
……!!
ふと上を見上げると…白い着物を着たうっすら桜色の長髪の男性が河津桜の樹の上で枝の間に器用に腰かけて微笑みながら見下ろしている
『おっと こんなとこからじゃ怖いよな』
彼はピョンと飛び降りると目の前に佇む
背が高い…188はあるかな…
『驚かせてすまなかったな…どうした…びっくりして涙もひっこんだか』
非現実的な展開に呆然としている私の手から彼は卵サンドをとりあげると美味しそうにぱくついた
『うまいっ! ふわふわでやわらけぇなぁ~ もっとあるかい?』
「あ…どうぞ…」
残りの卵サンドとハムサンドを渡すと嬉しそうに食べだす
お腹空いてるのかな…
「よかったらどうぞ…」
ペットボトルのお茶を差し出す
『お、有難い♪』
ゴクゴクと一気にお茶を飲み干すと月明りと公園の灯りで彼の顔がはっきりと見えた
えっ…おにい…ちゃん??
「おにいちゃん? おにいちゃんなのっ?」
男性は私を不思議そうに見て暫く考え込むとにっこり微笑んで口火を切った
『そっか…きみの会いたい人はこの顔なのか…』
「なに言ってるの? ふざけないでっ!! 突然、先に逝っちゃって…ひとりで逝っちゃって…私がどれだけ…!!!」
私は彼の胸を何度も何度も泣きながら叩き続けた
『…気がすんだか?』
どれくらい時間が経ったのだろう
『あのさ…ちょっと説明してもいいかな』
まるで腫れ物に触るような感じで聞かれる
「…うん…」
『まず俺はお前の…そのお兄ちゃんじゃない…桜男だ…目覚めたのは二百年ぶりくらいかな』
「桜…おとこ…で、でもっ、その顔、お兄ちゃんにそっくり…」
『ああ、これね…俺はさ、いわばなんつーか…精霊みたいなものでな…きみが親切に食べ物をくれて…ひどく悲しんでいて…』
『美味しい貢物を頂いたお礼に何かしてあげられないかなって考えてたらこの姿になってたんだ』
「お兄ちゃんじゃ…ないの?」
うう…
『おいっ、泣くな、わかった、わかったよ、お前のお兄ちゃんになってやる』
「何言ってるのよ! からかってるの? それに…お兄ちゃんになってやるとか言ってるけど、河津桜は三月には枯れちゃうじゃない…そうしたらいなくなっちゃうんでしょう」
『ああ、その事なら心配ねえよ お前が望むなら一生、ばあちゃんになっても傍にいてやれる』
「え…どーゆーこと?」
『精霊に比べたらな…人の寿命なんて短いものだよ…たとえ葉桜になっても俺は枯れるわけじゃない…少なくともお前が俺を必要とする限り傍にいられる』
『決めた! いまにお前がボケてばあさんになって本物のお兄ちゃんとやらが迎えに来るまでついててやろう』
「…私、夢をみているの?」
『現実さ…俺の姿はお前以外には見えないから何の問題はない ただ…しっかり個体として傍に居るためにやってほしいことがある』
もう夢だろうが…現実だろうがいいや…
お兄ちゃんに瓜二つのこの人がずっと傍に居てくれるなら…
「わかった。私は何をすればいいの?」
『ぬいぐるみを買ってくれ。お金は必要な分、払うから』
「ぬいぐるみは好きだからいいよ。で、何のぬいぐるみ?」
『お前がナイトとして24時間、傍にいてほしい動物。鳩でも犬でも何でもいいんだ』
「わかった! なら欲しい子がいるの」
数日後…
「ひろみは最近、立ち直って来たようだね」
「ええ、あなた あの子笑うようになったのよ 外にも出かけるようになったし…時間薬って本当なのね」
穏やかで優しい両親は兄が儚くなってから廃人のように引きこもりになって食事もろくにとらなくなった私を心配していたので『彼』が来てくれてから
明るくなってきた私の変化に気付いて優しく声をかけてくれる
「ひろちゃん、ハンバーグ好きでしょう? お兄ちゃんと一緒に食べなさい」
母が特大のチーズハンバーグとエビピラフを作ってくれた
「ありがとうママ。お兄ちゃんも喜んでるよ」
「ピラフ、おかわりあるからたくさん食べなさい」
「うん、パパと映画、楽しんできてね」
「ありがとう。お土産買ってくるわね」
「アイスとチョコでいいか?」
「うん、パパ。肉まんも食べたいよ」
「よしよし、買ってこよう、じゃあママ、そろそろ行こうか?」
「行ってらっしゃい♪ 楽しんできてね」
玄関のドアがしまった
「なぁママ…ひろみはずっとあのハスキーのぬいぐるみと話しているんだね」
「いいじゃありませんか、あなた。それでひろみが落ち着くのなら…どことなく面差しが浩二に似ているもの」
「ああ、そうだな」
「パパとママ、出掛けたよ。こーじくん」
『おお、食おうぜ♪ しっかしおふくろさん、料理が上手いなぁ』
「ちゃんと二人前作ってくれてる…」
『お、うめぇ!! ハンバーグもピラフも最高だぞ、ひろ、お前も食べな』
「うん♪」
お兄ちゃんに面差しも声もそっくりな精霊さんはハスキー犬のぬいぐるみ浩二としていつも傍にいてくれる
会話もできるし誰もいないと音楽を聴きながらダンスをしたり、桜の伝説やいろんなお話を語って遊んでくれるので毎日が楽しい
まるでお兄ちゃんが帰って来たみたいに…
ただ…お迎えしたのはグレーのハスキーなのに何故か彼の肌は桜色…
やっぱり桜男だからかな
【ひろ…ごめんな…お前の傍に一生いるためには俺は名乗れないんだ ハスキーの浩二として未来永劫…離れず守っているからな…】
「うん抱きしめるとふわふわして気持ちいい~♪」
「ひろは、ひろは浩二がいてくれれば何もいらないよ…ずっとずっと…傍にいてね」
『おう、もちろんだぜ、あったりまえじゃねえか!』
【お前が必要としてくれる限り、一生傍にいるからな…】
※ 二月に書いた作品です