夕方になって焦った様子の担任から、今すぐ家を訪問したいという旨の電話がかかってきた。電話に出た母は担任の訪問を了承し、私に静かに言い聞かせた。


「まずはお母さんが話すから自分のお部屋にいればいいよ。みっちゃんから聞いた事全部ちゃんと話すから安心してね。もし先生とみっちゃんが直接話す事になっても、自分が間違って無いと思う事は恐れずにそのまま話せばいからね。」


しばらくして担任が来た。

母はいつもと変わらない様子で、丁重に担任を出迎えた。

私は自分を落ち着かせるために、テレビを観ながら粘土で工作をしていた。テレビを点けていても聴こえてくる彼女の声にビクビクしながらも、敢えて工作に集中するようにしていた。

彼女が来てから1時間程経った頃、母は私を呼びに来た。母は私の目をしっかりと見つめ、小声で頑張れと囁いた。

私は大きく深呼吸して、応接間に向かった。


「こんばんは先生。」


「こんばんは!

彼女は取って付けたような笑顔で私を迎えた。


「お母さんからお話聞きました。先生は全然そんなつもりじゃなくて、みちの事とっても大事にしてるから、もっといい子になって欲しいから色々怒っちゃったんだ。分かってくれる?」

「私は何で怒られたのか分かってないのに、先生はいつも理由を教えてくれませんでした。ただ怒られるだけで理由を教えてくれなければいい子にはなれません。」


いざ、彼女と対面した時なぜか私は強気だった。自分の家で、しかも母が隣にいたからかもしれない。

妙に冷静だが完全に反抗的な発言に、彼女は少しだけムッとしたような表情をしたが、すぐ笑顔を張り付けて言った。


「怒る理由は必ずあったけど、それを言わないのは先生が悪かったね。ごめんなさい。これからはちゃんと理由もお話しするね。」


私は彼女の返答に納得していなかったが、謝られたからにはこれ以上何も言えなかった。ただ一つだけどうしても言いたい事があった。



「分かりました、お願いします。ただ最後に一つだけ。前田君の事ですけど、前田君がいくら悪い事したからってクラス全員の前でお父さんお母さんの育て方が悪いって言うのは絶対良くないと思います。」


「それはね、前田君のお母さんと約束したの。残念だけど前田君はちょっと生活態度が良くないから、今度前田君が悪い事した時にはそう言いますねって。それで


彼女はそこから前田君の件に関してつらつらと話し始めたが、私はもう聞いていなかった。子ども心にも彼女の話は言い訳にしか聞こえなかったからだ。話の最中に母の顔を盗み見たが、能面のような顔をしていた。


彼女は一方的に話した後、最後に私に握手を求めた。嫌々ながらも握手をし、明日から学校に行く事を約束した。


担任が帰ってすぐに父が帰宅し、家族3人で食卓を囲んだ。


「今日みっちゃんを休ませたでしょ、それで先生がびっくりして家に来たの。」


「そうか。先生何て言ってた?」


「決してみっちゃんが嫌いで理由もなく怒っていたわけではなくて、怒ったのには全部理由があったって。」


「先生の話聞いてお母さんはどう思った?」


「色々説明してくれたけど全部先生側からの話ばっかりでみっちゃんの意見なんて聞こうとしてなかった。みっちゃんは明日から学校に行く約束を先生としてたけど、本当は心配。あと、前田君の話は最悪だった。」


「前田君?」


「うん。私も今日初めて聞いたんだけど、前田君が悪い事した時に先生がみんなの前で、前田君のご両親の育て方が悪いって言ったんだって。みっちゃんはその事がずっと引っかかってたみたいで、先生にあれは良くないと思うって意見してた。」


「そうか。みっちゃんは間違ってないよ。お友達の事まで考えられるなんて、偉いね!ところでみっちゃん、明日から学校行けそう?」


「行けるよ!大丈夫!先生の事はやっぱりちょっとこわいけど、お父さんもお母さんも間違ってないって言ってくれたし勇気が出た!頑張って行ってくるね!


「そうか、頑張れ!


「なんかあったらすぐお母さんに言うんだよ。私はいつも味方だから!


「うん。お父さんお母さんありがとう!


こうして最初で最後の登校拒否は1日で終わり、翌日から元気に登校した。

この日から1ヶ月程はまだ、担任が理不尽な怒りをぶつけてくる事が数回あったが、それ以降は全くなくなった。そして何より私が全く気にしないようになり、無事に四年生を終える事ができた。


今回こんな話をしたのは、この事件をいつまでも根に持っていて愚痴りたかったからではない。いくら何でもそんな暇じゃないと言いたいところだが、これだけ鮮明に憶えている上にこんなに長々と書いているという事は、根に持ってるし暇なのかもしれない。


でも、本当に伝えたいのは世の中のお父さんお母さんに自分の子どもを1番に信じてあげて欲しいという事だ。

私の場合、両親がとにかく私を信じてくれたので登校拒否も1日で済んだし、元気に小学校を卒業できた。


今となっては担任1人からいじめられたところでなんてことないし、言い返してやるのにと思うが、幼い当時の自分には本当に辛かったし言い返す事もできなかった。私は基本的にはノー天気な性格なのでそれほど深刻にはならなかったが、繊細な子だったら深い深い心の傷を負っていたかもしれない。


もちろん、時には自分の子どもが間違っていることだってあるだろう。でも、まずは根気よく話を聞いてあげて欲しい。

そしてその上で必要なら、決して感情的にならず、冷静に、相手側に話をしてみてほしい。例えそれで自らの悪評が流れたとしても、子どもを守るためならモンスターペアレントと言われたっていいじゃないか。


楽しい事も辛い事も嬉しい事も悲しい事も乗り越えて、頑張れお父さんお母さん‼︎頑張れ子どもたち‼︎

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