フィリピン 5円玉のサラマット(ありがとう)
窓の外は、暗闇が続いている…僕は今回も一人で旅に出て、窓際の席から小さな窓から暗闇を眺めていた眼下には、大海原の様な分厚い白い雲が一面に広がり、見上げると無数の星々が暗闇の中で秘かに輝いていた。そんな狭間を運行する深夜便の飛行機の中で、寝れずにいる自分にとっては感無量な眺めだった。そんな眺めから、小さな明かりが見え始め、どんどん大きくなっていく。徐々に異国の地形が眼下に広がっていくと共に、また新たな地へと踏み込める事が嬉しかった。(バナウェの街を抜ける途中窓から声をかけられ、顔をあげると子供が窓から僕を覗いていたので、カメラを向けると笑顔を向けてくれた)フィリピンの首都、マニラ。その先には、どんな人が居て、どんな生活をして何が待ち受けているのか全く想像がつかず、ただフィリピンに対しての先天的なイメージと少しの著者の本を齧った知識くらいしかなかった。とにかく、僕が今回の旅で訪れたかったのが、「天国への階段」とも称される程のルソン島北部に位置する美しい棚田群だった。(まさに景勝地いや理想郷を思わせる景色が見渡せた)マニラのニノイ・アキオ空港に到着し外を出ると真夜中とは思えない程の警備員と観光客、その客引きや、ツアーガイドでごった返していた。深夜に空港から市内に行くバスも鉄道も無いので、どうしようか考えながらウロウロして歩いていると、何人かからタクシーの客引きから法外な値段を吹っ掛けられる。マニラからバナウェ行きの深夜バスは最終の便が22時半と無かったが、バキオ行きの深夜バスなら早朝3時半にある事は、調べていたのでヴィクトリアライナーのバス停へと向かう事にした。そしてバキオからの8時半のオハヤミバスに上手く乗り継ぐ事が出来れば、今日の夜にはバナウェに辿り着く事が出来るかもしれなかったターミナルの端っこへと歩み、暇そうにあくびをしているいささか人柄の良さそうなおじちゃんに声をかけ、値段交渉の元325ルピーでバキオ行きのバス停まで向かうことにした。普段はタクシーなんて絶対使わないが物価の安さと限られた日数の弾丸旅だった為、今回は時間を金で買うことにした。タクシーの運ちゃんと色々話しながら、車窓のからフィリピンの街並みを眺める。(喧騒と雑然とも言えるが、今まで訪れた地では感じる事の出来ない空気感と雰囲気を感じた)そこには、薄暗りの中で蠢く人や野良犬が怪しげに潜み、無機質なコンクリートやバラックの建物が連なる前に子供が昼間の様に外に出て遊んでいる。怪しく光るネオンバーの前にはただただベンチに座っている人が、なんだかその景色を目の前に妙な世界へと誘わられた感覚に堕ちおる。沢山の排気ガスにまみれギラギラとしたジプニーには子供から大人までが乗ってどこかへ向かおうとしている。けたたましいクラクションと初めて見る景色と、危うく怪しげな雰囲気を漂わせる風景に自分が小さくなるのを覚えた。バス停に到着すると、すでにバキオ行きのバスが出発しようとする。タクシーの運転手が何とかバスの運転手に待ってくれとタガログ語で頼んでくれたのか、バスは目の前で止まり何とか間に合ったとホッとしたのとは裏腹に、そのタクシーの運転手がお釣りがないから350ペソにしてくれと言い出してきた。空港からさほど距離もなかったし、予算も200~400ペソがおおよそと予め調べておいたから、それは少々高すぎるし、最初の交渉が成り立たないので、お釣りをくれと強く言ったが、おじちゃんは細かいお金がないんだと札だけを見せるばかりで、お釣りを返してくれそうにない。それでもお釣りを返す様催促したが、バスの運転手とその乗客がまだかと待ち構えているようだったので、仕方なく深夜の割増と思ってお釣りは諦めバスに乗り込み、マニラを後にした。(マニラの空港を出ると直ぐにバラック小屋が連なり、貧困の顔を見せるがどこかにやはり安全の文字が薄れた危険が漂うのを肌で感じた)前方の座席で荷物を取られないようにしっかり目に抱きかかえ、そこにジャンバーを被せ、そこに眠るようにしたが、「シャーベットバス」で名高いフィリピンの冷房の効きすぎたせいでなかなか寝付けず、窓の外に目をやる...アナウンスと共に起き上がり、何事かと外を見渡すと、どこかのサービスエリアらしく15分のトイレ休憩だそうだ。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。最初空いていた隣の席には、出稼ぎ帰りらしい風貌の男性が眠っていた。僕は、荷物を持ってサービスエリアのトイレへと向かうと、使用料金5ペソを支払えと書いた張り紙が記載してあり、清掃人がそこでお金の管理をしていた。だが、自分は50ペソしか手持ちがない事に気づき、両替をお願いしようとしたが、それを崩すお金は無いようだった。どうしようか迷ってると、(お母さんのお手伝いを一人前にハキハキとこなす姉妹の姉に思わず感動してしまった)すると咄嗟に近くに居たバスの運転手が5ペソを払ってくれ行けという。軽く有難うだけを言ってトイレを済ませてしまったが、なんだか5ペソだけでも申し訳なくなってしまい鞄にしまっていたタガログ語の単語帳ページを引っ張り、ありがとう(サラマット)とつたないタガログ語で改めて運転手にお礼を言い、ポッケに入っていた5円玉を渡した。「これは何だ」と聞かれ、「これは、日本のお金で、5ペソと同じくらいの価値が合るんだけど、日本人とっては少し縁起のいいコインなんだ」と久しく使った英語で伝えると、運転手のおじちゃんは少しはにかんだ様にして笑ってサマラット(ありがとう)と言ってくれた。そんな小さなやり取りでも、異国の知らない人と交わられた時の喜びが、温かい気持ちにして変えてくれる。バナウェへ出発したバスの中で運転手のおじちゃんの運転に揺られながら、僕はまたぐっすり眠りついた。