東大が授業料を値上げする先にあるもの
2025年4月入学から学部の授業料を2割引き上げる東京大学(東大)の方針が明らかになった。一方で、授業料全額免除の上限を引き上げるなどの支援拡充も発表。学生団体からは将来的な無償化を求める抗議声明が出されている。まず、東大の意向と、この施策が「学生」という大学関係者に対して持つ影響、大学関係者外に対して持つ社会的影響について考察したい。次に学生の観点からこの施策の是非について考えてみる。授業料を引き上げることで得られた資金は、研究施設の整備や新しい研究プロジェクトへの資金調達の促進に使われることが予測される。しかしこれらの資金は授業料以外からも徴収できるはずである。資金を調達する手段は授業料以外にも多く存在する。例えば、米国の大学は、大学自体をブランド化して大きなビジネス収益を生み出している。大学のマスコットや大学名を商標化して、アパレルから文具品までかなりの収益を受けている。バスケやアメフトでも有名なので、テレビやラジオの放送でも収益を受けている。また、ドイツの大学では、授業料がほぼ無料である場合が多い。教育への投資が国全体の経済や社会に利益をもたらすという考えから、政府からの補助金や企業からの研究費が確保しやすいという文化的理由もあるが、大学間で高価な研究施設や機器を共同で利用したり、企業や他国の大学との連携を見越して国際的な研究プロジェクトを進めたり、と効率的な財政運営を大学側が行なっているという理由もある。22年度の1人あたりの消費税徴収額を比較した場合、日本が約 168,800円 / 人、ドイツが約 469,000円 / 人であることを考えると、政府からの補助金を大幅に増やすことは困難だ。また、東大が米国の大学と異なり、運動を促進していないことを考えると、商標化によって収入を増やすことも難しい。ただ、クイズ番組の興隆やミスコンの話題性を利用した商標の活用はできなかっただろうか。また、引き上げられた料金は、研究施設の整備や新しい研究プロジェクトへの資金調達の促進に使われると前述したが、この資金は主に工学・医学部に回され、文学部・法学部といった1,000人くらい入る大教室で授業を受けるような生徒の元には費やされない。学部に関わらず授業料を一律にするのは公正さの点で正しいとは言えない。某教授は、授業料の引き上げによって東大内の女子比率が益々低くなるのではないかと危惧している。この某教授の意見に基づいて、ジェンダー不平等の観点からこの施策の悪影響を考えてみる。東大生を地方出身者40%と関東出身60%に分け、それぞれの男女比を調べてみると、地方出身者の場合は3:1、関東出身者の場合は5:1の比率となっている。関東においても地方においても女子の東大進学率は低い。この割合が20年以上固定されてきたことは、女子の東大進学率を低くする社会構造的な要因が存在することを示唆している。地方出身者の女子の東大進学率が低い構造的な理由の一つとして、地方では「息子より娘の教育にはさほどお金をかけたくない」心理を持つ人が多く存在していることが挙げられるのであれば、東大の授業料がやや割高になることで、彼らの受験前にかかる費用やら受験後の授業料やらの渋りが加速する可能性がある。結果として地方出身女子の東大進学比率は下がるだろう。東大内の女子比率が低くなることで悪影響が生じる(東大において女子比率が低い理由が、男性は女性より優れた頭脳を持つという早まった文脈で説明され、能力の劣らない女子が適した場所に受け容れられない等)のであれば、授業料の引き上げは、一部の人口が不利益を被る点において正しくない。ただ、この分析の妥当性を担保するには、「娘の教育にはさほどお金をかけたくない」心理を持つ親が地方において多いことと、東大の授業料の引き上げ度合いは彼らにとって大きく感じられること、の真偽を細かく調査する必要がある。また、東大内の女子比率が低くなることで悪影響が生じる点についても仔細に調べるべきだ。