産まれた時は

此方-こなた-は ただ広く……

世界の全てだった

天より光が降り注ぎ

見知った顔に囲まれて


育ち盛り

此方-こなた-より時折顔を出し

好みの変わった口を糊すたび

光の強さに身を焼かれ

慌てて喉を潤した


長じて はたと気がつけば

此方-こなた-の狭さに驚いた

住まいも糧もよう足りぬ

初めて真面目に外を見る

彼方-あちら-の水はどうだろか


ひとつひとつと声を掛け

仲良くなりも したものの

なれぬ者とも お付き合い

屡々-しばしば-逆の事もあれ

合わない水を口にする


ぎゅう詰めの彼方-あちら-

たまさか余裕の彼方-あちら-

割れかけた彼方-あちら-

涸れかけた彼方-あちら-

凝らした目に

彼方と此方の別はなく


老いて 今

井戸の淵に腰を掛け

高き天の光を仰ぎ見て

ただただ 途方にくれる我-くに-