-壱の客-



いらっしゃいませ。



はい、全て…、と云うわけには参りませんのですが、そこそこひと通り、には取り揃えて御座居ます。



さて、何をご所望で御座居ましょう?



ははぁ…売れ筋、で御座居ますか。



では、こちら…

まずは、何と申しましても、いの一番は、『お獅子』、で御座居ます。



いえゝゝ、『かくべえ』、の方で…



左様、こちらはもう古ぅくからの、皆様お馴染みのもので御座居ます、はい。



はい、事のはじまりは仰せの通り、“カタ”や“養い方の欲目”で泣く泣く…、と云うのが定石では御座居ましたが。

なにやら、昨今は自ら望んで売り込んで、と云うのが多う御座居まして。



仰る通り、そのぶん扱いには、ちょいとばかり、手が掛かる様になりは致しましたのですが…



そこはそれ、親方さまの見せ処。

手綱の加減を引いたり弛めたりの腕次第、に御座居ます。



はい、ひとたび売れますれば、天井知らず、これ以上、と云う事は御座居ませんので。

まづは辻売りを手始めに、一枚画、読み本、小間物など、如何様にも拡げる事が出来まする。

親方さまは勿論の事、お獅子方にも御殿が建った例-ためし-が、ごまんと御座居ますので。



仰せの通り、なにぶん人気の商いに御座居ますれば、大きな御店-おたな-が、たんと軒を連ねて居りまする。



では御座居まするが、そこはそれ、萬事に骨-こつ-と云うものが…



左様、毛色を…はい、ちょ、と今様に、もひとつ捻りますれば、これ、この様に、幾らでも化けまするので。

また、流行りが過ぎましても、順繰りに時分刻-じぶんどき-のお客さま方が次々お育ちになられまする様は、これ泉の如く、尽きると云う事が御座居ません。

お馴染みになられましたお客さま方には、焦れる手前の間を置きましての集いなども、大当りに御座居ます。



はい、大店-おおだな-と喧嘩をなさらず、後は箱屋や地方-ぢかた-へのお根回し、で御座居ます。

こちらの方が、質-たち-の悪いのが居るとか居ないとか、などと聞き及びまする。



あぁ、胡麻の蝿…

あれらへは、表向きは知らぬ存ぜぬを極め込みまして、裏で懃-ねんごろ-になりますれば、絵図面の書き様はどうなと親方さまの想いの儘、に御座居ます。



さて、粗方こんな処で御座居ますれば、如何なされましょう?

ひとつお試しに…

今でしたら、こちらなどが丁度、入り立てで御座居まして。


まだどちら様も、お目を付けて居られませんので、お買いものか、と。



左様で御座居ますか。

お買上、お有難う御座居ます。


はい、また何かお要り用が御座居ますれば、何なりとお申し付けくださいませ。



どうぞ、またのお運びを、心よりお待ち致して居りまする。
お気を付けてお帰りなさいませ。