水産市場で養殖魚の存在感が増している。技術向上に伴い生産者の創意工夫で様々な持ち味の魚を作れるようになってきたためだ。
天候で価格が乱高下する天然物に対し、価格変動が少ない利点も小売業者や飲食店から好感されている。小売業界や外食産業・漁業者の最近の取り組みを追った昨年10月7日の日経新聞記事です。
水産物の流通市場では長い間、天然魚の評価が養殖魚を上回ってきた。養殖魚はえさ独特の臭いが身に付いているためとされる。養殖は天然の代替品という考えは根強かった。しかし、状況は変わりつつある。
生産履歴も明示
百貨店内で鮮魚店を運営する北辰水産(千葉県)の高山信行社長は「売り場に置く魚を考えるときは、まず養殖物で骨組みをつくる」と話す。
小売店が入荷の安定している養殖魚を好む傾向が強まっている。大手スーパーや飲食店チェーンの存在感が高まり、販売計画がたてにくい天然魚を嫌う。国産のマダイ、輸入品のノルウェー産アトランティックサーモンやメキシコ産クロマグロが売り場を席巻する。
消費者の人気が高いクロマグロも養殖の存在が増している。水産庁によると、2015年の養殖による国産クロマグロの生産量は11年と比べて44%も増えた。消費者の食に対する安全姿勢が強まっており、育った履歴も明示できる養殖物の需要が生まれている。
鹿児島に新施設
安定生産は魚を出荷する側から見ても利点がある。日本水産(1332)は鹿児島県南九州市で新たにバナメイエビの養殖を始め昨年12月から出荷を開始、来年度には年間200トンの出荷を目指す。
同社は自然条件に左右される漁業に頼るだけでは努力しても経営改善に限界があると見て、養殖業に力を入れる。
独自の工夫で養殖と天然の双方の良さを取り入れる飲食店もある。喜代村(東京・中央)が運営するすしチェーン「すしざんまい」は天然のイワシやアジ、カツオ等の成魚を捕らえて海のいけすで備蓄している。
喜代村の木村清社長は「魚が捕れるときに市場に出すという漁師の論理と、売りたいときに欲しいという小売りの論理には差がある」と指摘する。
10年前にはアジ等々備蓄対象魚種で、1〜2割だった備蓄書の使用割合は現在は5割以上になった。天然魚のさっぱりした味わいを保ちつつ「価格変動リスクをかなり減らせた」(木村清社長)。今後も備蓄する魚種、量を増やす構えだ。
日本の養殖技術は世界的に見ても高い水準にある。進化する養殖が生産の安定性を生かせば海外への輸出を担う「攻めの漁業」にもつながる。15年の水産物輸出額は2757億円と前年比で18%も増えた。
▼水産物の養殖とは 魚や貝類、エビ等を人工的に育てるのが養殖。海や河川にいる魚を捕まえ、そのまま出荷する場合は天然魚と呼んで養殖魚と区別する。2015年の海の養殖生産量は前年比8%増の107万トン。そのうち海苔が27.9%、帆立が23.3%、ブリが13.1%を占める。15年は国内で捕れた魚介類全体の22.8%が養殖物だった。
ただ、養殖といってもクロマグロ、うなぎ、伊勢海老などは海洋で稚魚を捕獲してから養殖するために完全な養殖とは言えず、安定供給に向けた課題も多い。