鹿笛:悲惨な虐待事件が止まらない… /奈良
悲惨な虐待事件が止まらない。大阪市のマンションでは、母親の育児放棄で幼児2人が命を落とす事件が起きた。通報を受けながら救えなかった児童相談所の対応はもちろんだが、母親が離婚の際にどんな経緯で子供を引き取ったのかが気になる。
新米記者のころ、育児放棄で3歳児が死亡した事件を取材した。逮捕された母親は、「(わが子が)可愛くなかった」と供述した。離婚後に育児放棄が始まった点など、今回の事件と共通点があった。
離婚の際に親権を主張したという父親は当時、私にこう問いかけた。「自ら望んで引き取ったのにどうして虐待するのか」。私の中で答えは今も見つかっていない。(大久保)
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2児放置死:6月初旬に衰弱か 容疑者「呼びかけ応じず」
大阪2児放置死:愛知で長女一時保護 児相は母親と会えず
幼児2人死亡:「戻らないから死んだ」下村容疑者認める
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毎日新聞 2010年8月19日 地方版
記者の目
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記者の目:離婚と親子のかかわり=反橋希美(大阪学芸部)
◇別居親との面会は子の権利--反橋希美(そりはし・きみ)
離婚すると夫婦は他人。では親子は--。離婚後に離れて住む親と子のかかわりを考える企画「親子が別れる時~離婚を考える」を5月、本紙くらしナビ面に連載し「離婚しても親子は親子」と必ずしも言えない現状を報告した。離婚後の子どもの心と体を育てるのは養育費と、離れて住む親と会う面会交流。親権者さえ決めれば離婚できる現在の協議離婚制度から、この二つを取り決めてから離婚する仕組みに改めるべきだ。
この問題に関心を持ったきっかけは自分の離婚だった。当時、私が親権を持った長男は3歳、長女は8カ月。子を元夫に会わせるには私が連れて行かねばならない。元夫と顔を合わせるのは気まずいが「親子の交流は必要」と考え、離婚時に養育費と併せ面会についても話し合った。だが周囲は、上の世代ほど「なぜ会わせるの」と困惑した。
国が5年ごとに実施するひとり親世帯の調査で、養育費の支払率は約2割(06年)。極めて厳しい数字だが、同調査で面会交流は実施状況すら把握されていない。「離婚=縁切り」というイエ制度からの離婚観がいまだに根強いことを肌で感じた。
◇違う価値観知り、たくましく育つ
父母の一方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係および直接の接触を維持する権利を尊重する--。日本が94年に批准した子どもの権利条約の文言だ。欧米では80年代ごろから離婚の増加とともに子どもの福祉を重視する潮流が生じ、離婚後も両親が子の養育にかかわる「共同親権」が広がった。子どもは普段は一方の親と暮らすが、隔週2泊3日程度、別居親と過ごす。
日本は一方しか親権を持てない単独親権制だ。面会交流は近年、裁判や調停で広く認められるようになってきたが「子が嫌がっている」と親権者が強く拒否すれば、却下されることも少なくない。書類の親権者欄にチェックを入れるだけで協議離婚が成立する現行制度で、面会交流を取り決めている人は少ない。
面会交流が広がらない一番の要因は、子が別れた親に会う意義を見いだせないと考える人が多いからではないか。
私は、多くの場合、親子の交流は意味があると思う。幼いころに親の離婚を経験した男性(39)は祖母に「母は死んだ」と育てられた。成長し祖母との閉鎖的な関係に悩んでいた時、母の生存が分かり、離婚理由を聞いたことが生きる力を取り戻すきっかけになった。「テレビの再会番組みたいな劇的な感動はない。でも何かふに落ちた」という男性の言葉が印象的だった。
離婚家庭の子どもたちが交流し助け合うグループの運営にかかわる東京国際大の小田切紀子教授(臨床心理学)は「一概には言えない」としつつ「別居親と交流がある子は同居親といい関係が築ける傾向がある」と話す。両方の親の価値観に接すると、同居親と過度に依存し合ったり、逆に反発が集中しにくくなる。
親子の面会を援助する家庭問題情報センター(東京)の山口恵美子さんは「あんな父親でも会わせる意味はあるの」と相談してくる母親に「あなたは完ぺきな親?」と問う。山あり谷ありの面会を経て、たくましく育つ子たちを見てきた経験から「反面教師でも、親を知ることが自我形成につながる」と確信しているという。私も同意見だ。
◇「共同親権」の原則化は疑問
では共同親権を導入すべきか。私は選択肢としてならよいが、原則化には賛成できない。理由は「会わせられない」人の存在だ。離婚原因に家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス=DV)や精神的虐待を挙げる人は少なくない。今でも調停や裁判で面会を命じられてもうまくいかないケースが多々ある。欧米のように、安全な面会援助施設や、離婚前後の両親の相談に乗る機関の整備が先決だ。
当面の手立てとして参考になるのが、離婚観が近い韓国だ。養育費支払いと面会の方法を取り決めた計画書を裁判所に提出しなければ離婚できない。離婚時に作成した書類で養育費取り立ての強制執行もできる。08年以降に法が改正された結果だが、現地の専門家は「親たちの意識が変わってきた」という。
韓国方式の導入にはそれなりの公費投入が必要だが、効果はある。離婚後、何年も紛争が続くほど対立が激しい夫婦は全体から見れば少数で、一時の感情で交流のきっかけを失っている人たちも相当数いる。前述した施設や機関の整備を進め、「養育費と面会交流は子の当然の権利」との認識が広まれば、スムーズに交流できる人も多いはずだ。親が離婚する子どもは年間24万人。本気で取り組むときだ。
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ご意見をお寄せください。〒100-8051毎日新聞「記者の目」係/kishanome@mainichi.co.jp
毎日新聞 2010年8月31日 東京朝刊
◇一人親、手を上げる前に
「息子さんの体にあざがあったという情報があります」。今年2月、京都市の主婦(38)は電話で告げられた。前夫(48)が引き取った長男(10)と長女(7)が通う静岡県内の小学校の教諭からだった。
前夫は結婚当初から家庭で敬語を使うよう強制し、ささいな失敗に激しく怒った。しつけにも厳しく、子どもにも手を上げた。精神的に耐えられず離婚を決意。子どもは引き取るつもりだったが、長男が転校を嫌がった。前夫は子どもと暮らしたいと懇願し「しかり方を改める。子どもに月1回会わせる」と約束したため、まかせることにした。
ところが前夫が約束を守ったのは最初の半年だけ。次第に面会に難色を示し、学校が長期休みの時しか会わせなくなった。この夏休み、1日だけ会えた長男は「お父さんにはよく怒られるけど、謝っておけば大丈夫だから。まだ我慢できる」と話した。前夫に「虐待」を問いただしたり、親権者変更を求めれば、逆上して子どもが更に危険になる気がする。「次に会えるのは冬休み」と涙をぬぐった。
■ ■
7月初め、東京都内の公園で、幼い兄弟が小川の水を浴びて遊んでいた。2人を見守る両親のそばには、離婚後の親子の面会を仲介する「NPOびじっと」(横浜市中区)の古市理奈理事長(39)がいた。離婚した夫婦の対立が激しいと、子どもの面会で協力できない。間に立って調整するという。
虐待防止が活動目的の一つで、「一人親はストレスがたまりやすい。手を上げてしまう前に、もう一人の親にSOSを発信して」と呼び掛ける。面会では親子でプールに入るなど、できるだけ子どもの体をチェックする機会を設けるという。「離婚しても父と母が子どもの養育にかかわり、成長を見守ることが大切」と訴える。
■ ■
「お母さんにはいつでも会っていいよ」。奈良県の会社員男性(39)は長女(10)と長男(5)にこう話している。離婚して子どもと暮らす父子家庭だ。
元妻(37)は子どもに厳しくあたった。甘えてまとわりつくとたたいたり、怒鳴ることも日常茶飯事。精神的に不安定で、約4年前、子どもを連れて家出した時、男性から離婚を申し入れた。親権を求めたが、家裁の審判で「子どもが幼い」と親権は元妻に。それから2年後、大阪高裁の判決で元妻の体罰などが問題視され、ようやく子どもを引き取れた。
親権は得たが「子どもには母親の姿を知って育ってほしい」と、月1回以上、泊まり掛けで元妻に会わせている。「今度、お母さんと会う時に着て行く服を買おう」などと、元妻との面会を嫌がっていないと態度で示すようにしている。
「行ってきまーす」。元気よく母親の元に向かう子どもたち。近所からも「今どき、近所のおっちゃん、おばちゃんとこんなにしゃべってくれる子はおらん」と可愛がられている。【児童虐待取材班】=つづく
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児童虐待に関する皆さんの意見をお聞かせください。この連載に対する感想もお寄せください。メールo.shakaibu@mainichi.co.jp、ファクス06・6346・8187か、〒530-8251 毎日新聞社会部「児童虐待取材班」(住所不要)まで。
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新米記者のころ、育児放棄で3歳児が死亡した事件を取材した。逮捕された母親は、「(わが子が)可愛くなかった」と供述した。離婚後に育児放棄が始まった点など、今回の事件と共通点があった。
離婚の際に親権を主張したという父親は当時、私にこう問いかけた。「自ら望んで引き取ったのにどうして虐待するのか」。私の中で答えは今も見つかっていない。(大久保)
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記者の目
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◇別居親との面会は子の権利--反橋希美(そりはし・きみ)
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この問題に関心を持ったきっかけは自分の離婚だった。当時、私が親権を持った長男は3歳、長女は8カ月。子を元夫に会わせるには私が連れて行かねばならない。元夫と顔を合わせるのは気まずいが「親子の交流は必要」と考え、離婚時に養育費と併せ面会についても話し合った。だが周囲は、上の世代ほど「なぜ会わせるの」と困惑した。
国が5年ごとに実施するひとり親世帯の調査で、養育費の支払率は約2割(06年)。極めて厳しい数字だが、同調査で面会交流は実施状況すら把握されていない。「離婚=縁切り」というイエ制度からの離婚観がいまだに根強いことを肌で感じた。
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父母の一方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係および直接の接触を維持する権利を尊重する--。日本が94年に批准した子どもの権利条約の文言だ。欧米では80年代ごろから離婚の増加とともに子どもの福祉を重視する潮流が生じ、離婚後も両親が子の養育にかかわる「共同親権」が広がった。子どもは普段は一方の親と暮らすが、隔週2泊3日程度、別居親と過ごす。
日本は一方しか親権を持てない単独親権制だ。面会交流は近年、裁判や調停で広く認められるようになってきたが「子が嫌がっている」と親権者が強く拒否すれば、却下されることも少なくない。書類の親権者欄にチェックを入れるだけで協議離婚が成立する現行制度で、面会交流を取り決めている人は少ない。
面会交流が広がらない一番の要因は、子が別れた親に会う意義を見いだせないと考える人が多いからではないか。
私は、多くの場合、親子の交流は意味があると思う。幼いころに親の離婚を経験した男性(39)は祖母に「母は死んだ」と育てられた。成長し祖母との閉鎖的な関係に悩んでいた時、母の生存が分かり、離婚理由を聞いたことが生きる力を取り戻すきっかけになった。「テレビの再会番組みたいな劇的な感動はない。でも何かふに落ちた」という男性の言葉が印象的だった。
離婚家庭の子どもたちが交流し助け合うグループの運営にかかわる東京国際大の小田切紀子教授(臨床心理学)は「一概には言えない」としつつ「別居親と交流がある子は同居親といい関係が築ける傾向がある」と話す。両方の親の価値観に接すると、同居親と過度に依存し合ったり、逆に反発が集中しにくくなる。
親子の面会を援助する家庭問題情報センター(東京)の山口恵美子さんは「あんな父親でも会わせる意味はあるの」と相談してくる母親に「あなたは完ぺきな親?」と問う。山あり谷ありの面会を経て、たくましく育つ子たちを見てきた経験から「反面教師でも、親を知ることが自我形成につながる」と確信しているという。私も同意見だ。
◇「共同親権」の原則化は疑問
では共同親権を導入すべきか。私は選択肢としてならよいが、原則化には賛成できない。理由は「会わせられない」人の存在だ。離婚原因に家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス=DV)や精神的虐待を挙げる人は少なくない。今でも調停や裁判で面会を命じられてもうまくいかないケースが多々ある。欧米のように、安全な面会援助施設や、離婚前後の両親の相談に乗る機関の整備が先決だ。
当面の手立てとして参考になるのが、離婚観が近い韓国だ。養育費支払いと面会の方法を取り決めた計画書を裁判所に提出しなければ離婚できない。離婚時に作成した書類で養育費取り立ての強制執行もできる。08年以降に法が改正された結果だが、現地の専門家は「親たちの意識が変わってきた」という。
韓国方式の導入にはそれなりの公費投入が必要だが、効果はある。離婚後、何年も紛争が続くほど対立が激しい夫婦は全体から見れば少数で、一時の感情で交流のきっかけを失っている人たちも相当数いる。前述した施設や機関の整備を進め、「養育費と面会交流は子の当然の権利」との認識が広まれば、スムーズに交流できる人も多いはずだ。親が離婚する子どもは年間24万人。本気で取り組むときだ。
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■ ■
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元妻(37)は子どもに厳しくあたった。甘えてまとわりつくとたたいたり、怒鳴ることも日常茶飯事。精神的に不安定で、約4年前、子どもを連れて家出した時、男性から離婚を申し入れた。親権を求めたが、家裁の審判で「子どもが幼い」と親権は元妻に。それから2年後、大阪高裁の判決で元妻の体罰などが問題視され、ようやく子どもを引き取れた。
親権は得たが「子どもには母親の姿を知って育ってほしい」と、月1回以上、泊まり掛けで元妻に会わせている。「今度、お母さんと会う時に着て行く服を買おう」などと、元妻との面会を嫌がっていないと態度で示すようにしている。
「行ってきまーす」。元気よく母親の元に向かう子どもたち。近所からも「今どき、近所のおっちゃん、おばちゃんとこんなにしゃべってくれる子はおらん」と可愛がられている。【児童虐待取材班】=つづく
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児童虐待に関する皆さんの意見をお聞かせください。この連載に対する感想もお寄せください。メールo.shakaibu@mainichi.co.jp、ファクス06・6346・8187か、〒530-8251 毎日新聞社会部「児童虐待取材班」(住所不要)まで。
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大阪2児放置死:愛知で長女一時保護 児相は母親と会えず
毎日新聞 2010年9月6日 大阪朝刊
