それでも授業は刻々と進んでいく。いつも通りにボーとしながら何かを考えては目の前の問題を解く。そして間違いを直す。授業はいつも通り進んでいき、終了を告げる鐘が鳴った。私はその後、友達数名にバイバイのジェスチャーをして教室を後にした。授業中やそれ以外でたまに筆談をするだけでも何だか疲れが溜まっていた。きっと不慣れなことを急にしたからだろう、私はそう思いながらバスに乗り込んだ。

 空はすでに日中の輝きを暗闇へと奪われ真っ黒に染まっていた。筆談だからやっぱりコミュニケーションはスムーズにはいかず多少のストレスが溜まる実感がある。でもその中でも意思疎通が行われると嬉しくなったりする。私たちが日々昼夜にしてる意思疎通がこんなにも単重で、でもその単重はいろんな複雑から造り上げられてると思うと何だか可笑しく思えた。と同時に大切さの大きさも知れた気がした。バスは多摩センターへと停車し、私は降りた。(あっ、そうだ。本屋で買いたいのあったんだ)。そのまま丸善(本屋)へと向かった。

 そこの本屋は地域最大級の約1200坪の売地で70万冊もの本を取り揃えている。こんな広い本屋でお探しの本を素早く発見する方法はやはり店員に聞くことだろう。そう察した私は店員に「本の題名とこの本はドコにありますか?」と書いてあるノートを見せることにした。しかし、歩き回る店員を止めるのは意外と難しいものだ。いつもなら店員を見かけたら「すいません」と一言添えて言えば大抵は捕まえられるのだが今はそれができない。仕方なく店員の方でも叩きに行くか。そう思って歩き回る店員のもとへと小走りに向かった。ノートを見せると店員は即座に私の探してる本を探してくれた。

「あっ、これですね。お探しの本は」店員がそう言う。

(そうです)と二回ほど私は頷いた。そしてあることを思い出しペン先を紙の上に乗せた。

「ありがとうございます!!」と書いたノートを見せた。店員は小さく微笑みその場を去って行った。感謝の言葉を文字にするって何だか普段何気なく口にする感謝の言葉よりも深みがあってイイものだな。私はそのままレジへと直行。すると怒鳴り声が聞こえた。それは今向かい途中のレジの方からだ。

(何が起きたの?)少し不安の気持ちのままレジの方へと向かった。そしてそこには壮絶な光景が私を待っていたのでした。


失声症で過ごした日々③に続く