~人類最強のロックバンドが最後に刻んだ轍。~

Abbey Road/The Beatles(1969年発表)
春を迎えていろいろと変化を身に感じる。間違いなく何かへ向かっているのを感じながら当惑しつつも期待を胸に毎日を生きている。
アビィ・ロード。
ビートルズという奇跡の四人が散り散りになりながらも、必死の思いで作り上げた最後の作品だ。この作品は全員が違う方向を向いているのに同じ方向へ向かっている。シニカルさと人情味溢れる暖かみが同居した今作は、一聴しただけでは気づけない含蓄のある作品に仕上がっている。
まるでビートルズの中で起きている冷戦状態を描いているようだ。
怪しげなささやき、陰鬱に繰り返すロックンロールがなんとも不気味な"Come Together"が今作のオープニングだ。協調性が無いようで、かろうじて繋がっているギリギリの緊張感が支配する。ファーストアルバムから見せてきた暖かみを捨てた、何か別の方向への強い意識を感じる。
名実共にジョージの名曲となった"Something"は全くの対照的なアプローチだ。雲が緩やかにたなびくようにギターのメロディが解き放たれた解放的作品に仕上がっている。間延びにならないよう隙間に現れるベースがピリッと締める。抜群のセンスを感じる。
"Oh! Darling"を始めなぜこのアルバムはこんなにも別れというキーワードがよく出るのだろうか。明るい曲調にも関わらずポールの声は悲痛な叫びのように聴こえ涙を誘う。
"Octopus's Garden"で見せるユーモアなエフェクトは一種の清涼剤のようにそれまでの雰囲気を一変させてくれる。リンゴのキャラクターがにじみ出るこの曲で魅せる彼の鈍感力にはどこか関心させられる。
休戦協定を結んだと思ったら"I Want You (She's So Heavy)"で我々をまたどん底に突き落とす。もう解散は誰にも止められない、というメッセージにも思えてくるのだ。
荒れ果てた心に差す太陽のように"Here Comes The Sun"が照らし出す。やはり幻だったのか、と一度考えてもジョージが支配する曲が現れたという事実に思わず鼻白む。二人の面影が遠のくのを肌で感じる。
終わりを予感させるキーワードをちりばめながらついにこのアルバムもクライマックスを迎える。
美しいバラード群が織りなすハーモニーが"Golden Slumbers"から始まり、やがて"The End"へ向かう。不思議と終わりを受け入れる覚悟はもう出来上がっているのに気づく。人が死ぬのを悟るときもこのような心境なのだろうか。満足したと言えば嘘になるかもしれない、それでも終わりを受け入れる。儀式のように淡々と進む中でひたすら待ち続ける。最後の炎を燃やし尽くして、"Her Majesty"が残された灰のように風と共に去る。
総じて見て傑作と呼べるかと言われると、はっきり言ってノーだと思う。
ただ一つ、終わりが持つ華やかさ、最後の教授といったものを見せてくれる貴重な作品には違いない。最後に大きなものを残してくれた。
1. Come Together
2. Something
3. Maxwell's Silver Hammer
4. Oh! Darling
5. Octopus's Garden
6. I Want You (She's So Heavy)
7. Here Comes The Sun
8. Because
9. You Never Give Me Your Money
10. Sun King
11. Mean Mr Mustard
12. Polythene Pam
13. She Came In Through The Bathroom Window
14. Golden Slumbers
15. Carry That Weight
16. The End
17. Her Majesty
