最終更新日20260112
1 コンピュータの進化と概念の発展①
「コンピュータ」という言葉は、17世紀頃から20世紀前半にかけては計算を行う職業の「計算手」のことを意味していた。
彼らが業務を行う際は、一般的には、例えば計算に用いる式を決める部門、その式の計算手順を決める部門、実際に計算を行う部門などに分かれた数十人から数百人規模の組織で、天文学、測量、航海術、弾道学などに必要な膨大な計算を行っていた。
これは、手計算やそろばん、機械式計算機を用いて、工場の生産物として情報を作っていたと考えると理解がしやすい。
前述の時代において、「コンピュータ」に当たる概念である計算機を一概に指す名称は無かったようだが、19世紀後半頃からは「メカニカル カルキュレータ/Mechanical Calculator (機械式計算機)」などといった呼称が普及していたようである。
calculatorとは
「calculator」は、現代の英語の意味では計算機や電卓を意味し、動詞の calculate((手で)計算する)+ 接尾辞 -or(~する人・もの)からなる名詞である。
ちなみに「computer」は電子計算機を意味し、動詞の compute((コンピュータによって)計算する)+ 接尾辞 -er(~する人・もの)からなる。
この時代におけるコンピュータは、主に機械工学的な技術で作られたものであり、人力(手動)を動力源とし歯車などで動力を伝達し機械に計算を行わせるものであった。
この内、有名なものがパスカルやライプニッツの発明した手廻し式計算機であり、日本ではこの系統の発展したものとして、時代は大きく変わるが「タイガー計算器」が存在する。
タイガー計算器とは、実業家、発明家の大本寅治郎が1923年(大正12年)に完成させた卓上用計算機である。
銀行、工場や科学研究などで用いられ、戦中から普及し始め、戦後を経て高度経済成長期の末期にかけて広く使われていたが、1960年代に電卓が発明されると計算機としての役目を急激に追われ、1970年( 昭和45年)に製造が終了された。
筐体は突出部を除くとその大きさは、底面は小さめのまな板程度の面積で、高さは小柄な女性の手のひらほどの高さだったようである。
タイガー計算器の使い方は、入力用の縦型のダイヤル式のカウンターを手動で動かして計算に使う数値を入力し、足し算をしたい場合は右に付いているハンドルを奥側に1回、引き算をしたい場合は手前側に1回回すとできるようになっていた。
掛け算をしたい場合は、原理としては掛けたい数値だけハンドルを回し、割り算の場合は割りたい数値を割る数値で引き算し、それを引き算が出来なくなるまで繰り返し、答えと余りを求める仕組みになっていた。
具体的に11÷3の場合は、
11−3=8 8−3=5 5−3=2
という計算となり、この時引き算をした回数が割った時の答えであり、引けなくなって残った数値が余りである。
それらの結果が出力用のカウンター窓に表示されるようになっていた。
1822年、イギリスの数学者、計算機科学者のチャールズ・バベッジが、階差機関という機械式計算機の設計を開始した。
この時代のイギリス社会は、産業革命が深化し経済的に大きく発展した時期であり、その経済を支えるための植民地や、海上の通商ルートの維持のために航海に使われる数表を重要視していた。
数表というのは、対数や三角関数の値をあらかじめ計算し、表を辞書のように一覧にしてまとめたもので、これらの値は例えば、測量、航海(位置の計算)、天文学の分野などで複雑な計算を迅速に行うために使われるものである。
バベッジがこの機械式計算機を開発しようと試みる切っ掛けとなったのは、その数表の数値に誤りが多く存在することを知っており、また実際に数表の作成作業の一部を体験する機会があったからである。
巨大な数値を扱うこれらの分野では、誤差を少なくするために精度の高い数値が必要であり、数表に示される数値というのはその分桁数の多いものである。
このため、手計算で行われる数表の計算はミスが発生しやすく、バベッジの試みはこれを改善するためのものであった。
また、数表の印刷段階でのミスも無くすため、階差機関には加算機構だけでなく印刷機構も付属した設計になっていた。
このプロジェクトには膨大な資金が必要で、バベッジはイギリス政府からそのための協力を得ることが出来たが、1833年に階差機関の開発を断念し、階差機関より進歩的な構想を持った解析機関の設計・開発に関心を示すと、“計算機の開発”ではなく“正確な数表の作成”を望んでいた政府との関係が悪化し、政府からの資金援助は得られなくなった。
このためバベッジは、階差機関に継いで自身が設計した解析機関も完成させることが出来ずに、1871年にこの世を去った。
彼の設計した解析機関は階差機関と違い、例えば対数の計算や三角関数の計算など、計算の種類毎に使用用途を限定しない、汎用の機械式計算機として構想されたものであった。
このため、計算方式を切り替えるための命令を入力できる必要があり、これは厚手の紙に穴を空けて作られたパンチカードで行う予定であった。
このパンチカードに穴を空ける行為が、現代のコンピュータで言えばプログラミングに相当するもので、この発想は一世紀近く後に開発される、汎用コンピュータの発想を先取りしたものである。
その他には、演算機能と数値の保存機能を分離したことも革新的なアイデアであった。
解析機関も数表の作成を意図して作られていたため、出力は紙への印刷や印刷原版の作成などの形で考えられており、これに加えて前述のような機能を実現するために複雑な設計になっていたため、完成していればその大きさは現代の電車の車両1.5車両分の大きさになっていたらしい。
また、この理由から蒸気機関を動力源として動かすことになっていた。
パンチカード
パンチカードは、主に記録媒体として使われ、その他にもデータの整理やプログラミングなどにも利用された。
このカードは、ジャカード織機の生地の模様の制御や、オルガニート(手回し式オルゴール)の演奏などのために使われていたものが発想の元となっている。
一般的な見た目は、現代でも使われているマークシートに似ていて、サイズは日本の一万円札よりひとまわり大きい程度である。

1831年、イギリスのマイケル・ファラデーは、「電磁誘導の法則」に関する論文を発表し、発電機やモーターの原理を確立させた。
これを受けて、1830年代の西洋の様々な国で電信機が生み出され、1840年代にはアメリカでサミュエル・モールスによるモールス符号を用いた電信機が実用化された。
この時代の電信機は電波による無線のものでなく、電気信号(パルス信号)を有線で送り通信するものであった。
しかし有線の場合は、信号が伝達途中で電気抵抗などで減衰していくため、長距離での通信を達成するには工夫が必要である。
そのために作られたのがリレー(継電器)であった。
リレー(継電器)とは、電磁石によってバネの力による復元力を持った構造体を動かすことで、電磁石の回路とは隔絶されている別の回路の電流を、スイッチのON/OFFをするように流したり、止めたり出来る仕組みのことである。
具体的には、電気抵抗によって弱くなったパルスが電磁石のコイルに流れるとき、隔絶されているもう一方の回路が十分な電圧を持っていれば、それが接続状態になることで強力なパルスに変換できたのである。
回路とは
回路とは、電池や電源から出発した電気がスイッチや豆電球、抵抗、ICなどの部品を通って、再び電源に戻ってくる経路を指す。
電気回路の例えとして、従来の水路ではなく水道管式の水路を用いてを、電源をポンプ、電圧を水圧、電流を水量、パイプの中の水車を抵抗としてイメージすると分かりやすいらしい。
このパイプ内の水車によって、水路内の圧力や水量を調節する。
電信柱
電信の通信線を張り巡らせるために敷設されたものが電信柱であり、この柱は後に電力の配電システムを構築する際にも利用されることとなった。
日本において、通信線だけでなく送電線が架線されている場合でも“電信柱”というのはこのため。
また1880年代には、トーマス・エジソンによって白熱電球のための発電・配電システムがアメリカで作られるに至った。
これによって、電気を一般家庭や企業に供給するビジネスモデルとインフラが実用化され、これはイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、日本などにも普及して、電気をエネルギーとして使える時代が本格的に幕を開ける切っ掛けとなった。
この時代に作られた機械に、タビュレーティングマシン(作表機)というものがある。
これは、アメリカの発明家ハーマン・ホレリスによって、1889年に発明されたもので、パンチカードに記録されたデータを集計するために作られたものである。
この機械は、1890年のアメリカの国勢調査で初めて実用化され、約6200万人分の人口統計などを調査し、前回の国勢調査より4年以上調査期間を短縮することに成功した。
また、この機械は電気で動き、人がパンチカードを読み取らせる過程でパンチカードの穴の部分にピンが差し込まれるような仕組みになっており、それによって回路が通電し、その回路のカウンターが増えていくような仕組みになっていたようである。
また実際の集計作業では、カードの分類機や穿孔機、結果を印刷する機械なども一緒に使われた。
このパンチカードとタビュレーティングマシンを中心として作られた情報処理システムことをパンチカードシステム(PCS)といい、1960年代に電子式コンピュータが普及するまでは、アメリカの政府関連組織、保険会社、銀行、鉄道会社、郵便局、電力会社などで使われた。
tabulatorとは
「tabulator」は、動詞のtabulate(表にする)+接尾辞 -or (~する人・もの)からなる語で、表を作る装置や人を意味する。
パソコンのキーボードの「Tabキー」はこの語に由来し、「Tabキー」は元々「タブストップ」というレバー状の構造体と一緒に、タイプライターで表を作るのに使われていたものである。
この表というのは列を特定の位置に揃えて見やすくしたものである。
「タブストップ」の位置を調整することで「Tabキー」を押したあとの打鍵位置をその特定の位置に調整することが出来た。
ちなみに、「tabulator」と「table」は同じラテン語を語源とし、「table」にはテーブル、食卓の意味の他に一覧表、表の意味もある。
加えて、1874年には、アメリカの実業家、発明家ファイロ・レミントンがタイプライターの販売を始め、最初に商業的に成功を納めている。
タイプライターは、誰が見ても読み解ける文書を素早く作成するのに必要な道具である。
これらの出来事からは、19世紀末の世界において、既に計算機に加えて情報処理技術に対する強い需要と関心があったことが窺える。
この頃には、計算機に対しても徐々に「コンピュータ」や、人間と区別するために機械の方は「コンピュータマシン/computing machine」と呼ぶのが一般的になっていた。
しかし、この時期の計算機の分野では電気は主に動力源としてしか用いられておらず、大きな技術的な革新は起こっていない。
計算機の技術が、電気工学的なものから、電気を信号、情報として扱う電子工学の分野にまで発展するには、理論的な裏付けが必要であった。
電気工学と電子工学
電気工学は、主に大規模な電力の発生・制御、送電・配電など、エネルギーとしての電気を扱う学問であり、一方で電子工学は、電気の正体である電子を信号・情報として扱う学問である。
一般的には電気工学の一分野として電子工学は扱われるが、前者を「強電」、後者を「弱電」と対比して扱われるほど、電子工学は専門性の高い分野となっている。

【参考文献】
・「経営と情報」に関する教材と意見
著者:木暮 仁(hitoshi@kogures.com)
https://www.kogures.com/hitoshi/index.html
・タイガー手廻計算器資料館
https://www.tiger-inc.co.jp/temawashi/temawashi.html
・コンピューティング史―人間は情報をいかに取り扱ってきたか―
著者 Martin Campbell-Kelly・William Aspray・
Nathan Ensmenger・Jeffrey R. Yost
監訳 杉本 舞
訳 喜多 千草・ 宇田 理
共立出版株式会社 2021年4月15日
・コンピュータの歴史■先覚者たち∶その光と影の軌跡
著者 横山保
(株)中央経済社 1995年2月25日