• 加曽利 E 式に後続する曽利式は、波状口縁上を把手状に形取り、深鉢を始め、ひさご形土器・平口縁深鉢・台付鉢など安行式に共通する組成であるところから、加曽利B式と安行1式との過渡的な型式と考えられてきた。
  • 確かに関東東部の資料に関しては、うなづける内容と言える。しかし、高井東遺跡をはじめ大宮台地から関東北部の資料が増加して、それらを見ると東海中部山岳地方と共通する特徴が見られ、曽谷式と幾分相違する(後述)。それらは↓後期土器編年表の 63-64の深鉢などに代表されるもので、高井東式と呼ぶ人もある。
  • このような曽谷式の時期における土器様相の違いは、加曽利 B 3式の時期における関東東部と西部の地域差をほぼ継承したものといえる。
  • ただ、この高井東式にしても次の段階には曽谷式から変遷した安行1式に席巻され、この地域差も解消される。

 

  • 1971年、桶川市高井東遺跡の発掘調査を実施

 

 

  • 高井東式は、安行式に併行する縄文後期後葉の西関東に特徴的な土器群で、中部日本方面との関係により成立したと考察される。

 

西関東における高井東式土器の研究 (古谷渉 2014、埼埋文紀要)

  • 高井東式は、特徴的な大きな波状口縁深鉢と平縁深鉢、浅鉢、鉢、注口で構成されている。

 

1高井東式羽状沈線文粗製深鉢、2-6 高井東式精製深鉢、7&8 高井東「つ」の字文精製深鉢

9&10 曽谷・安行1式帯縄文系精製深鉢、 11&12 曽谷・安行1式紐線文及び条線文系粗製深鉢

13-18 高井東もしくは曽谷・安行1式無文深鉢 

 

*******************************************

『広域分布する異形土器』  西村広経(東京大学考古学研究室研究紀要第 33 号)

 

1期(加曽利B1式)

  • 1期(加曽利B1式)の東北は、後期前葉段階と比較すると斉一性が強まり、東北全域に系統を同じくする土器が分布。
  • 一方で、加曽利 B1 式系の土器は、仙台湾周辺から秋田/山形県境あたりを北限として東北南部に広く分布する。
  • したがって、1 期(加曽利B1式)の東北南部では東北系土器と加曽利 B1式系の土器が混在しており、両者は主客を分かち難い。
2 ~ 3期(加曽利 B2~ B3式)
  • 2 期には東北全域にほぼ同一内容の土器群が分布し、関東系土器の分布もほとんど認められなくなることから、単一の土器型式圏ととらえられる。
  • また、北海道の手稲〜𩸽澗 1 式とも酷似した型式内容であり、 広い範囲で土器群の斉一性が強まる。
  • 一方で、関東・中部の加曽利 B2 式土器には地域性が顕在化し、遠部斜線文類型、大森磨消弧線文類型、羽状沈線文類型が 分立する(秋田 2006)
 
4期(曽谷式)
  • 4 期には北海道で突瘤文によって特徴づけられるエリモ B 式・堂林式(古段階)が成立する。これらは東北の瘤付土器第 I 段階とは異なる内容の土器群であり、北海道、東北の間で再び地域性が強まったものと理解できる。
  • 関東・中部では地域性がより明確になり、曽谷式、高井東式が分立する。

 

5 〜 6 期(安行1 ~ 2式)
  • 概ね 4 期の枠組みが継続し、晩期に至る。

 

***********************************************

『縄文時代後・晩期土器の研究 ― 新潟県奥三面遺跡群の資料を中心にして ― 第2節 大波状口縁深鉢の分類と変遷』 2013年3 月 古澤妥史(新潟大学大学院現代社会文化研究科)

 

  • 新潟地域縄文後期後半~晩期初期の遺跡分布。 北部、阿賀野川北部、中央部、南部に区分

 

  • 南部エリアから特徴的な大型波状口縁部を持つ高井東類型土器が出土。

カミナリ様沈線(9,11,12,14,16)

 

  • 古段階(曽谷式 ~ 安行1式);「高井東式類型」土器群は、北陸系と中部高地系という全く異なる 2 つの系統が、器形・口縁部文様(北陸系)、胴部文様(中部高地系)を部分的に融合させた結果、成立した土器群。
  • 中段階(安行 1 ~ 2式);南部では、「高井東式類型」が独自の変遷を辿りながらも、母体となった中部高地系・北陸系という二系統と緊密に連動して変化していく
  • 新段階(安行2 ~ 3a / 晩期);南部では中部高地系・北陸系と密接な関係を持つ「高井東式類型」が一定の文化圏を維持し続ける。

 

*****************************

曽谷式と若干の違いを示す高井東式は、東海中部山岳地方にその土器圏が広がると考えられる。(我孫子 縄文土器大成③(後期))

  • その萌芽は、高井東/曽谷式の前の加曽利B式土器の分布と地域差に見ることができる。
  • 西関東の3単位の把手をもつ精製深鉢(埼玉県高井東18、神奈川県小仙塚、長野県大花)が、東海から中部にも分布する。
  • これら3単位把手の精製深鉢は、東北地方はもとより東関東にもみられない。このことから、西関東から中部・東海方面を包括する土器圏が推定されるが、次の段階で、曽谷式とは地域的な差異を示すグループ(高井東式)の成立を促している。
  • 東海の晩期初頭を構成する清水天王山式、長野県下高井郡の佐野式はおそらくこの系譜からの出現であろう。

加曽利B式土器の分布

 

中ノ沢深鉢の変遷

 

************************

高井東遺跡調査報告書(埼玉教育委員会 1975)