「好きにすればいいじゃん」


先輩のこの一言で全てが決まった。





私は普段から
先輩の家によく遊びに来てた。

別になにをするわけでもなく、
めっちゃ話をするわけでもない。

ただ携帯をつついて、
ごろごろして、帰りたくなったら帰る。

なんせ先輩の家は
職場からの帰り道にあって
しかも私の家とも10分の距離だったから
かなり遊びに行きやすかった。


ところが、訳あって
先輩が遠くに引っ越すことに
なってしまった。
職場から私の家への帰宅方向とも真逆で
距離がかなり離れた。

それでも私は
先輩の家でくつろぐことが
心地よすぎて
頑張って先輩の家に行っていた。

なんでそこまでして
先輩の家に行くのか
自分でもよくわからなかった。


だけど当然、
そんな遠くの家に行くということは
帰宅時間も遅くなり、
なんならそのまま寝てしまって
泊まることも増えた。

そんなのはもちろん
厳しい私の両親が黙ってるはずがない。


「毎日毎日、家のこともせずに、
遊び歩いていい加減にしなさい。」


そりゃそうだ。
ごもっとも。


親はなにも間違ってない。


わかってる、それは。


ただ、どんだけわかってても
先輩の家にいくことを
辞めることができなかった。
先輩の家でくつろぐことで
自分の仕事スイッチをオフにできていたからだ。




かといって、このまま
親の怒りを放置しとく訳にもいかず。


どうしたものか。


そこで思いついたのがルームシェア。



反対をされるの覚悟で
親に言ってみた。

もちろん、男の先輩と、なんて言ったら
許してくれるはずがないから、
友達とって。
父さん、母さん、ごめん。



「友達とルームシェアしようかとおもう。
自分のやりたいことも
やらなきゃいけないことも
全部自分でやってみようと思って。
期間はとりあえず1、2ヶ月。
無理だと思ったら帰ってくる。」



反対されること大前提で
相談してみた。




そしたらびっくり。
なんとまぁあっさりOKがでた。



「お前の好きなようにしてみたら
いいじゃん。」



びっくりしすぎて
とりあえず先輩に報告&相談。


なんせ私が勝手に思いついた案なわけで、
先輩とも何も話してなかったからだ。




だけどよく考えて、
メリットなんてひとつもない。
家を出る理由がない私が
わざわざ家をでて、
作ってもらってたご飯も
してもらってた洗濯も
全て自分でする。

さらに先輩なんてもっとメリットはない。
自分のテリトリーに
彼女でもないなんでもない女が
ぽこんと入ってくるのである。



うまくいくはずがない。
メリットがない。
デメリットがありすぎる。



それでも、私は
先輩の家に住み着きたかった。


だからダメ元で相談してみた。



親から許可がでた。
でもお互いにメリットはなにもない。
それでもルームシェアしたい。
家賃はいくら払ったらいいかな。
それによって
どうしようか決めようかな、と。





そしたら、先輩は答えました。
あっさりと。


「お金はいらん」


「え?」


「別にえーよ、お金なんか。」


「え、そんなん言われたら、
ほんと、住みますよ?」



「好きにすればいいじゃん。」





こうして先輩とのルームシェア生活が
幕をあけた。