刑事訴訟法105条・押収拒絶権が行使されたにもかかわらず捜索が実施された違法性が争われた事例 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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刑事訴訟法105条・押収拒絶権が行使されたにもかかわらず捜索が実施された違法性が争われた事例


損害賠償請求事件
【事件番号】    東京地方裁判所判決/令和2年(ワ)第32586号
【判決日付】    令和4年7月29日
【掲載誌】     LLI/DB 判例秘書登載



刑事訴訟法
第百五条 医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができる。但し、本人が承諾した場合、押収の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。

第二百二十二条1項 第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、第百十条から第百十二条まで、第百十四条、第百十五条及び第百十八条から第百二十四条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条、第百十一条の二、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。


       主   文

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

       事実及び理由

第1 請求
   被告は、原告らに対し、各33万円及びこれに対する令和2年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は、J(以下「J」という。)に対する出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)違反被疑事件等につき、令和2年1月29日午前10時10分頃から同日午後3時05分頃まで実施された原告I(以下「原告法人」という。)が設置する事務所(以下「本件事務所」という。)に対する捜索・差押え(以下「本件捜索等」という。)に際し、刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)222条1項において準用する同法105条に基づいて押収拒絶権を行使したにもかかわらず本件捜索等が実施されたとする原告らが、検察官及び検察事務官による本件事務所への立入り、本件捜索等及び本件事務所からの不退去(以下「本件各行為」という。)が違法であると主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づいて、原告1名につき各33万円の損害賠償金及びこれに対する本件捜索等が実施された日(違法行為の日)である令和2年1月29日から支払済みまでの平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
  (1) 当事者及び関係者
   ア 原告A、原告B、原告C、原告D、原告E、原告F、原告G及び原告H(以下「原告弁護士ら」ということがある。)は、いずれも原告法人が設置する本件事務所に勤務する弁護士である。
   イ Jは、後記(2)及び(3)のとおり、金融商品取引法(以下「金商法」という。)違反及び会社法違反の被疑事実及び公訴事実により逮捕、勾留、起訴され、保釈中の令和元年12月29日、入国審査官から出国の確認を受けることなく、本邦から出国した者である。
     原告弁護士らは、令和2年1月16日に辞任するまで、上記被疑事実及び公訴事実について、Jの弁護人を務めていた。
   ウ K、L及びM(以下、3名を併せて「Kら」という。)は、上記イのJの出国に関与したことが疑われる者らである。
  (2) Jの逮捕、勾留、起訴及び保釈
   ア 検察官は、平成30年11月19日、金商法違反の被疑事実(平成22~26年度分の虚偽記載のある有価証券報告書の提出)によりJを逮捕し、裁判官による勾留を得て、同年12月10日、同事実につき東京地方裁判所に公訴を提起した。また、検察官は、同日、金商法違反の被疑事実(平成27~29年度分の虚偽記載のある有価証券報告書の提出)により同人を逮捕し、裁判官による勾留を得、同月21日、会社法違反の被疑事実(特別背任)により同人を逮捕し、裁判官による勾留を得て、平成31年1月11日、上記両事実につき東京地方裁判所に公訴を提起した。
   イ 東京地方裁判所は、平成31年3月5日、Jの保釈を許可する旨を決定し、同月6日、同人は釈放された(甲2、3)。
     Jは、会社法違反の被疑事実(特別背任)により同年4月4日に再逮捕され、その後勾留されたが、同月22日の公訴の提起後、東京地方裁判所は同月25日に同人の保釈を許可する旨を決定し、同日、同人は釈放された(甲4)。
   ウ 上記イの各保釈の許可に際し、東京地方裁判所は、次の条件を付した(甲2~4)。
    (ア) Jは、原告法人の事務所から貸与されたパーソナルコンピュータ(機種名:(以下省略。)。以下「本件PC」という。)のみを、平日午前9時から午後5時までの間、本件事務所内において使用し、それ以外の日時・場所で、パーソナルコンピュータを使用してはならない。また、Jは、本件PCのインターネットのログ記録を保存しておかなければならない。
    (イ) Jは、制限住居の内外を問わず、面会した相手の氏名(ただし、同人の妻、弁護人及び原告法人の事務員を除く。)、日時・場所を記録しておかなければならない。
    (ウ) Jは、弁護人を介して、上記(ア)のログ記録及び上記(イ)の面会記録を、それぞれ裁判所に提出しなければならない。
  (3) Jの出国
    Jは、保釈中の令和元年12月29日、入国審査官から出国の確認を受けずに関西国際空港から航空機に搭乗して離陸し、本邦から出国した。
  (4) 本件事務所に対する1回目の捜索の試み
    令和2年1月8日、東京地方検察庁の検察官及び検察事務官ら合計5名が本件事務所を訪れ、前記(3)の出国に係るJに対する入管法違反被疑事件等について本件事務所を捜索する旨を申し出たところ、原告弁護士らは、刑訴法222条1項において準用する同法105条に基づき押収拒絶権を行使し、捜索自体も拒絶する旨を述べた。上記検察官らは、1時間に及ぶ原告弁護士らとの問答の末、本件事務所から退去した(乙3)。