育休を取得したXに対し,育児休業を取得したことを理由としてなしたY法人による平成28年度の昇給不実施につき,不法行為に基づく損害賠償責任が認められた例
大阪地方裁判所判決/平成28年(ワ)第9859号
平成31年4月24日
損害賠償請求事件
近畿大学事件
【判示事項】 1 法は,事業主に対し,育児休業期間を出勤として取り扱うべきことまで義務付けているわけではないから,育児休業をした労働者について,当該不就労期間を出勤として取り扱うかどうかは,原則として労使間の合意に委ねられているというべきであり,被告Y法人の旧育休規程が育児休業期間を勤務期間に含めないものとしているからといって,直ちに育児介護休業法10条が禁止する「不利益な取扱い」に該当するとまでいうことはできないとされた例
2 Y法人の旧育休規程について,少なくとも,定期昇給日の前年度のうち一部の期間のみ育児休業をした職員に対し,旧育休規程および給与規程をそのまま適用して定期昇給させないこととする取扱いは,当該職員に対し,育児休業をしたことを理由に,当該休業期間に不就労であったことによる効果以上の不利益を与えるものであって,育児介護休業法10条の「不利益な取扱い」に該当すると解するのが相当であるとされた例
3 Y法人において,減年調整を実施するか否かやその内容については,Y法人に一定の裁量があると認めるのが相当であり,かかる性質を有する減年調整については,Y法人と職員との間の労働契約の内容となっていて,職員がY法人に対してその実施を求める労働契約上の権利を有するとは認められないとされた例
4 Y法人において,育児休業期間のうち2分の1を勤続期間に算入して,特別昇給としての減年調整を実施することは,育児休業をした者に対しても一定の配慮をしながら,現に勤務をした者との間で調整を図るものとして一定の合理性を有しているというべきであって,原告Xが本件育休をしたことにより,平成29年4月1日に減年調整を実施しなかったY法人の取扱いに裁量権の逸脱または濫用があったとは認められず,不法行為法上違法であるとはいえないとされた例
5 増担手当について,増担手当の支給要件の有無を通年での平均担当授業時間を踏まえて判断し,事後的に支給要件を満たさなくなった場合に支給済みの増担手当の返還を求めるというY法人の運用が直ちに不合理であるということはできないが,年度の一部の期間について育児休業をした場合に,その期間の担当授業時間を0時間として,これと現に勤務して担当した授業時間とを通年で平均することは,育児休業したことにより,育児休業をせずに勤務した実績までをも減殺する効果を有するものであるというべきであり,かかる取扱いは,育児休業をした者に対し,育児休業をしたことを理由に,当該休業期間に不就労であったことによる効果以上の不利益を与えるものであるから,育児介護休業法10条の「不利益な取扱い」に該当するというべきであり,増担手当の返還請求は,同条に違反し認められないと解するのが相当であるとされた例
6 本件育休を取得したXに対し,育児休業を取得したことを理由としてなしたY法人による平成28年度の昇給不実施につき,不法行為に基づく損害賠償責任が認められた例
【掲載誌】 労働判例1202号39頁