大阪高等裁判所判決/平成25年(ネ)第3095号
平成26年7月18日
損害賠償請求控訴事件
医療法人稲門会(いわくら病院)事件
【判示事項】 1 3か月間の育児休業を取得した男性看護師である原告Xについて,翌年度の職能給の昇給を行わなかったことは育児介護休業法10条に定める不利益取扱いに該当しないとした一審判決を変更し,被告Yの就業規則の不昇給規定を根拠に昇給させなかったことは,不法行為法上違法と判断され,平成23年度,24年度の給与および賞与差額8万9040円の請求が認められた例(退職金については損害なし)
2 Yの育児休業規定9条3項(「昇給については,育児休業中は本人給のみの昇給とします」)に基づく職能給の不昇給は,Y病院の人事評価制度のあり方に照らしても合理性を欠き,育児休業取得者に無視できない経済的不利益を与えるものであって,育児休業の取得を抑制する働きをするものであるから,育児介護休業法10条に禁止する不利益取扱いに当たり,かつ,同法が労働者に保障した育児休業取得の権利を抑制し,ひいては同法が労働者に同権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものであるといわざるを得ず,公序に反し,無効というべきであるとされた例
3 Xは,平成22年度に育児休業を取得し3か月以上不就労期間が生じたことを理由として昇格試験受験に必要な標準期間に同年度が算入されなかったため,24年度の昇格試験の受験機会を与えられず,同年度の昇進の機会を失ったことによって精神的苦痛を受けたと認めるのが相当であるとして,不法行為に基づく慰謝料の請求を一部認容(15万円)した一審判断が維持された例
注、パタニティー・ハラスメントとは、子育てに積極的にかかわろうとして、育児のために休業・休暇や時間短縮勤務を希望する男性労働者(パパ)に対する嫌がらせやその他不利益な扱いをいいます。
【掲載誌】 労働判例1104号71頁
労働経済判例速報2224号3頁