パパが紙にSEIくんの病名を記した。


『総肺静脈還流異常症』


医療従事者である私でも初めて聞く病気だった。
文字を見て、心臓だと確信した。

パパは、ゆっくり話してくれた。

『簡単に言えば、本来の心臓の血管が、違う場所に繋がっていて、二酸化炭素が多い血液が循環していて苦しい状態なんだって。幸い、SEIくんは、心臓に穴が開いているから今は最悪の状態じゃない。だけど、早急に手術をしないと生きられない。上手くいけば
明日医大に転院して翌日に手術になるかな。でも、医大が開かない時は、違う病院に行くかもしれないって。』


パパは、私が分かるように話してくれた。

そうか…。

だから産まれた時に黒かったんだ。

おかしいな、と思ったのはこれが原因だったんだと思った。


パパは、『大丈夫、医者は手術すれば治るって言ってたよ。そんなに心配する必要ないよ。』


私を安心させようと優しい言葉をかけてくれたけど、私は不安で仕方なかった。


実家の母に連絡した。
すぐに駆け付けてくれた母。

SEIくんが転院した事を話す。

『あなたがしっかりしないと。きっと大丈夫、あんなに大きく産まれてきたし、何よりあなたの子供でしょ、信じなさい』

とてもとても心強かった。

私がしっかりしなくちゃ。早く異常に気がついてくれたのだから。


消灯の時間になってもパパから連絡はなかった。
心配になってmailしたら、『まだ検査中』と返事があった。


長いな…。

医療従事者の私が出てくる。

おそらく、心臓に何か異常があるだろうと何となく確信していた。

看護師さんに、旦那が検査終わったら産院に来ると伝えると、『いつでも入れるようにしますね』と言ってくれた。


長い長い夜。
眠れず、頭をよぎるのはSEIくんの事ばかり。


夜11時過ぎ、パパから電話が来た。


『どうだった?』


『とりあえず、そっちに向かうから。詳しく話すから。』

何度聞いてもそればかりで、私はSEIくんの病気が悪いものだと確信した。



30分後。
パパが到着した。

『お疲れ様、長かったね。それで、SEIくんはどう?心臓が悪いんでしょ?穴が開いてたの?』


パパは、『惜しい。やっぱり分かるのかな。でも、違う。お前を信じて話すから、落ち着いて聞いて。本当は、お前には話すなって医者に言われたんだ。医療関係だから、相当心配するだろうし、産後すぐだからって。でも、お前を信じて話すからね。』



その言葉を聞いて、私は動悸がした。全身から血が抜けるみたいな感覚。

SEIくんの病気、かなり深刻な事が分かった。


『分かったよ。ちゃんと聞くから。』


後陣痛の痛みなんて忘れてた。
ぼーっとナースステーションに佇んでいた。
周りからは赤ちゃんの声が響きわたっている。

課長さんが慌ただしく動いている。
『救急車要請した?』
『あと5分で来ます』
SEIくんが搬送される用意で慌ただしい。

あぁ。本当に行っちゃうんだな。

心の中は不安と、大丈夫って気持ちが交錯していた。

もうSEIくんを抱っこできないんだなぁと思っていたが…。

『おかあさん、少ししか時間ないけど、抱っこしていいよ』
課長さんが抱っこさせてくれた。

産まれてから2回目の抱っこ。

軽いけど、ずっしりしていて、見た目には普通の赤ちゃん。このまま連れて行ってしまおうか…。

どこが悪いの?
同じ赤ちゃんだよ?
本当ならおっぱいあげて、いっぱい抱っこして、一緒に寝てあげられるのに…。

そんな気持ちで抱っこしていた。大丈夫といい聞かせていた気持ちが不安に負けて、涙が出そうになった。
抱っこしながら涙をこらえるのが精一杯だった。

『SEIくん。頑張ってくるんだよ、mamaもすぐ行くからね』


『それじゃ、行きますね、大切な赤ちゃんをちゃんと届けてきますね』

私の腕からSEIくんは離れて行った。

遠くから救急車の音。

本当に行ってしまうんだ。


私はナースステーションを出てどこに救急車が来るのか探す。

救急車の音に他のお母さん達が出てくる。

『どうしたんでしょうね』


ティーサロンで一緒だったお母さんに声をかけられた。

黙っていようとしたけど、顔がひきつって嘘が付けなかった。

『私の赤ちゃん、検査になって、違う病院に行くんです』

そう話ながらももう限界だった。
涙が流れてしまった。

『きっと大丈夫だよ、大丈夫。赤ちゃん大きかったし、心配ないよ』

『そうなんです、きっと大丈夫…』

もう涙が溢れて止まらない。

救急車が到着した。
SEIくんは、課長さんに大切に抱かれて慌ただしく先生と一緒に乗り込んだ。

そしてサイレンを大きく鳴らして出発していった。


『ママ、行ってくるね』

そう言っているよいな気がした。


涙が止まらない私は、話かけてくれたお母さんにお礼をして部屋に戻った。