仕事中、受付カウンターで来客の話を聞きながらメモをとりはじめた。
3文字目を書き始めたところで何か違和感を覚えた。
めまいを感じて顔をあげると壁にかかっていた絵画が揺れていた。
絵画をひっかける為の天井からつるされた数本のチェーンが大きく揺れている。
自分の体はその動きについてゆけずに船酔いしたような感覚に陥った。
波はゆるやかに広がっていった。
事務所の職員は皆顔をあげ、壁や天井を見まわして地震を感じていた。
事務所内の本棚はすべて転倒防止措置がしてあるが、中身が飛び出すほどの揺れでもない。
デスクの下にあわてて潜り込む人もいない。
大きなガラス窓はきしむこともなかった。
職員それぞれが不安を抱えながら息をひそめて揺れがおさまるのを待った。
ゆるやかな波は数度にわたって大きくうねりながら じきに静かに遠のいた。
事務所の2階のホールではお年寄りのグループがフォークダンスを楽しんでいた。
館内に大きな混乱はなかった。
地震がおさまっても自分にはまだめまいと悪寒があった。
地震が遠のいた後から恐怖感がひしひしと押し寄せてきた。
平静を装って寒さと身震いをこらえた。
事務所内にテレビがないので若い職員がンターネットで地震情報を調べていた。
総合病院へ向かって走る救急車が見えた。
ライトバン型の消防自動車が事務所前を通過する。
民間の青パトも出動している。
そういえば自宅の娘はコタツでふるえているだろか。
心配になりケータイを手に廊下に出て自宅の固定電話にかけてみる。
耳におしつけたケータイはなかなか発信音に切り替わらない。
画面を見直してみると “発信中” の文字が表示されている。
話し中の「プー、プー、プー」という音が聞こえたが、途端にプツリと切れ、表示されたのは “通話終了” の文字。
ケータイ同士の方が繋がりやすいのかと思い娘のケータイにかけてみたが、やはり繋がらずにプツリ “通話終了” の文字表示。
そういえば皆が一斉にかけている為の混線だと思い出した。
お正月のニューイヤーメールのように通話しにくくなっているのかもしれない。
娘に “地震 大丈夫?” と打ったSMSは送信できた。
事務所にもどり
「ケータイが繋がらないので、すみませんが自宅に電話させてください」
と、断って自宅の固定電話にかけた。
スムーズに繋がり、元気な娘の声をきくことができた。
娘は自宅2階の自分の部屋にいて、蘭丸は娘の横で遠赤外線ストーブに当たっていたらしい。
猫が何かを感じて行動を起こすことはなかったようだ。
SMSは遅れて届いたらしい。
眉間のあたりに残る軽い頭通を覚えながら私は仕事の終了時間を待った。
自宅は高台の団地にあるが、とにかく まっすぐに帰宅した。
通勤路の穏やかな田園風景はいつも通りだが、車内のラジオで名古屋辺りの新幹線は全て止まったことを知った。
自宅では先に帰宅した夫がテレビで地震情報を見ていた。
2階からは大声で友達と電話している娘の笑い声が聞こえた。
夕飯を準備しなければ…。
私のめまいは続いていた。







「ふは~、あっつぅ~


