あらすじ
天空の勇者達によって放たれたミナデイン。
それによって大ダメージを受けた勇者ロト。
彼を庇う為にひとりの か細い一筋の光が
命を捧げて 勇者レックの放つビックバンを
耐えるが、重傷を負って倒れる。
追撃を命令された双子の勇者のうち兄は
一騎討ちに臨むが、瀕死ながらロトの子孫に
呆気なく敗北し 双子の妹も呆気なく敗北する
かと誰もが思った瞬間。
双子の妹は竜へと化け 暴走して兄を守ろうと
するが そのチカラを制御しきれず、
助けようとした兄をも殺しかけてしまう。
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「できもしないのに格好付けちゃってさ。」
ドサッ
「もうっ、君が死んだら悲しむよ。
アルス君やエックス、ナインさんもさ。
・・・ナインさんは今、敵なんだっけ。」
飛竜の吐いた こごえるふぶき によって凍り付いた
地面へ倒れたゆっくりと倒れた かつての友。
今じゃ敵対しているが 僕を庇って倒れた人だ。
年下のくせに お人好しでいい子過ぎるんだ。
でも、僕と同じ、小さなチカラしか持っていないが
故に強大で屈強なチカラを欲しているんだ。
そして、強過ぎる自己犠牲の精神。
まるで鏡を見ているようだったが、あの子は
僕とは違って明るいし 才能もあるんだ。
ベホマやベホマラー、ギガデインなんかをあの年で
習得していて 僕が使えるようなスクルトやベギラマ
なんかも十分に使いこなせる。
それがムカつくのかな。
悪口とローレとの兄弟喧嘩で得たスキルを駆使して
本当にいじめてやりたいというぐらいの憎悪を
抱いて戦いに臨んでいたんだ。
そう、さっきまでは。
「ぼ…僕は いいから。たすけてあげて、」
「あぁ。」
彼はゆっくりと目を閉じて気を失う。
その様子を見て 危険を察知して僕は彼を担ぎ上げ
彼の生存という願いをこめてベホイミを唱えると
今度は僕が飛竜を睨み付けて立ち上がった。
「さすがに・・・重たいな。」
レックスは僕よりも身体は大きいこともあってか
この子を担いだまま戦闘となると だいぶ厳しいが
逃走と同時に迎撃を試みることにした。
僕の身体が小さいというのもあるのだろうけど
これ以上、踏ん張るのは難しいが 何とかして
ここを生き延びなければいけない気がした。
「キャァァァァァァァ!!」
「ベギラマ!!」
こごえるふぶきに対しベギラマを唱えて応戦。
飛竜による尻尾の攻撃や 攻撃によって倒れてくる
大木を避けながら開けた場所へと向かおうとする。
目眩しにギラの閃光を顔に目掛けて発射すると
しばらく飛竜のもがく姿を確認し 足音を立てない
ようにレックスを運ぶ。
回復なら そこで間に合わせよう。
敵は敵だけど 友達だということを思い出した。
情のせいで 先程の戦いでも殺害までは及ばず
こんな形で彼を傷付けてしまったんだ。
「本当は何かあるんだよね?
君がそんな酷い組織に入るだなんて。」
ベホイミを唱えながら動かなくなった友達へ問う。
やはり、返事は返ってこない。
傷口は癒えたが あまりに出血が多いことから
目を覚ましたとしても 動き回ることはないだろう。
ある程度、回復呪文を施すと 再びロトのつるぎを
片手に、自我を失って暴れる飛竜へと立ち向かう。
「100年以上前の話をしよう。
とある男がたったひとりでドラゴンを退治した。」
「キェェェェ!!」
「これが、その物語の再現だ!」
僕は知らない あの日の再現。
あの日はこのぐらいの輝きを持っていたのか。
近いご先祖様と同じぐらい強い光をロトのつるぎ
からは感じられて 勇気が湧いてくる。
遠い遠い 「あの日」のこと。
お姫様を救う為にドラゴンを討伐した物語。
ある意味でこれは その物語の再現だった。
僕達の住む世界とは異なる世界のお姫様を救う為
ドラゴンを倒す物語の1ページとなる。
でも、僕にとってのお姫様ではないんだ。
だから この子を倒してエンディングではない。
勇者ロトから先代へ、先代からローレへ。
ローレから僕へと受け継がれた大切な剣。
「フフフ・・・貴様等では相手にならぬ。」
「くそが、調子乗りやがって!」
「もはや これまでとは。」
勇者2人を相手取り魔族の王として本領発揮した
ピサロは魔界の剣を手に 追い詰める。
身を裂いて散った血を吸い、所持者の数を癒す。
奇跡の剣とは似て非なる才能の魔界の神器。
対するは雷のチカラを強く宿した特殊な剣と
伝説の勇者が遺した王者の剣ことロトのつるぎ。
「ならば わしが相手をしよう。」
「今更、老ぼれが戦場へ何のようだ?」
「こやつらでは相手にならぬのだろう?
相手をしてやると言っているんだ。」
「よかろ・・」
ズバッ!!!
ザンッ!!!
「ぐはっ!!?」
相手は人間であり、老兵だと油断をしたピサロは
オルテガによって目にも止まらない速さで
一瞬にして切り刻まれ 一歩また一歩、後退し
防戦一方になっているようだった。
焦るピサロに躊躇なくオルテガは攻め続ける。
「バギクロス!!」
グォォォォォォッ!!!
「ずあああっ!!」
ズシャッッ!!
ズバババッ
シャキィィィィィィィィンン!!
「この老ぼれがァァ!!」
ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!
バギクロスをイオナズンで相殺し、致命傷を
なんとか免れたピサロは反撃に移ろうと
距離を置いてマヒャドを唱えて時間を稼ごうと
詠唱を始める。
「うおおおおおおッ!!」
しかし、容赦ない攻撃を続けるオルテガは
たとえピサロがマヒャドを撃とうと、氷の刃が
降り注ぐ中を突っ込んでピサロとの距離を詰めて
ひたすらに猛攻撃を続行しているようだ。
普通ならば後退するか防ぐかで足止めされるもの
をダメージを恐れずに真っ直ぐに来るとなると
流石の魔族の王も動揺を隠さずにいた。
「この程度か 魔族の王!」
「ええい、黙れ! 引導を渡してやろう!」
キィィィィィンン!!!
ドドドド
ギィィィィ!!!!
メキメキメキメキメキッッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
「あれが・・・オルテガ様の本気!?」
「ええ、ここはオルテガ様に任せて我々は離脱を」
「何 言ってんだよアレフ様!!
俺達も戦わなくちゃ! 回復してくれ!」
「いいえ、かえって足を引っ張るだけです。
私はサマル君を助けに行きます。」
「そんなことない! 俺だってひとりボコボコに
ぶっ飛ばしたのアレフ様だって見てたろ!?」
「王子!!」
「・・・!!?」
戦地にて口論をするアレフとその子孫のローレ。
次から次へと増える敵に対して 離脱を試みるよう
アレフが諭すが、どうしてもこの戦いの中で自力で
武勲を立てたいとワガママをいうローレに一喝。
自身のレベル以上にこの場をうまく立ち回った
アレフでさえもひとりの敵に苦戦を虐げられた
ことから、これ以上は危険と判断をしたのか
声を荒げてローレに怒鳴りつける。
普段から温厚なアレフがここまで激怒したことで
大抵のことでは怯まないローレも萎縮し、
片手に剣を持ったままその場で立ち尽くしていた。
「王女を独りにするおつもりですか?」
「ごめん、アレフ様。」
「すまない・・・、声を荒げてしまって。」
「サマルを頼みます。」
アレフは逸早く大きな魔力の発生を察知して
ルーラを唱えて サマルの元へと駆けつける。
その様子を確認したローレは素早く離脱し、陣地へ
戻って 次の戦いに備えて砥石で剣を磨く。
「まだ戦える」と感じてはいたが、足を引っ張ると
言われたことにショックを受けていた。
今までは戦闘は自身が引き受け、周りからは
任されていたローレだが、呪文を用いてトリックで
周りを楽しませたりができなかった。
アルス達と過ごしていた時に薄々気付いてはいたが
気付かないようにしていたことがあった。
俺にはアルスのように釣りや料理、船大工なんか
できるわけがない、エックスのように刀鍛冶も
したことがなく やろうとも考えたことはない。
サマルは呪文が使える上に愛想が良く振舞えるから
周りからは とても好かれていた。
俺は勇者や王子以前にローレシアの軍人だ。
傷の手当ては人並み以上に心得ているが
呪文と比較するとそれも意味はない。
戦いのない環境は俺の居場所なのか?
あまり考えたくなかった。
起きて、食う、トレーニング、寝る。
その繰り返しの人生だったせいかアルス達との
時間が楽しく思えた、ロト様にも遊んでもらえて
俺には周りを笑わせることができないことが
すごく辛く感じるんだ。
なのに、俺よりも強くてみんなを笑わせることが
できるやつがムカついて仕方がなかった。
俺の存在価値を否定されているように感じた。
それなのに戦場ですら居場所はない。
俺の存在価値が薄れてゆく。
いや、そもそもあるのかすら分からなかった。
この感情を表に出さず 陣地へ帰還した。
スタッ
「魔王の次は竜と来たか。」
チャッ、
アレフはサマルの前に立つと ゆっくりと剣を構え
真剣な表情で攻撃の届く範囲まで踏み込んだ。
「冗談じゃない。」
飛竜が放つ こごえるふぶきを難なく回避する
アレフとサマル。
しっかり地に足を付けて 懐へ踏み込んだアレフは
まるで音を置き去りにするような速さで必殺の
剣技をサマルの目の前で披露した。
「秘剣 ドラゴン斬り!!」
ズバァァァ
ッッッ!!!?
チャッ…
ドスン
一撃で力尽きて倒れた竜は少女の姿に戻り、
地面には少女のものと見られる大きな血溜まりが
できていて アレフはせめてもの情けとして
苦しまないようにと手早く仕留めようとする。
剣を振り下ろす瞬間のこと。
ガギギギギギ
アレフが振り下ろした両手の攻撃は幼い少年の
片手によって防がれていたのだった。
先程まで、死にかけていた者とは思えないような
あり得ないチカラを宿していたのだ。
膝をついて 片手には少女を抱え、もう片手では
ロトのつるぎの攻撃をてんくうのつるぎで
庇うようにして 防御しているようだった。
これにはアレフとサマルは驚愕していた。
今、この少年を刺激したら サマル、或いは
アレフをも凌ぐ能力を発揮するのではないかと。
現にこの少年はアレフやサマルが習得できていない
ギガデインを10歳の時点で開花させていた。
12歳になる現在の魔力はそこ知れぬものだった。
偶然、マホトーンが効いたことで勝利を得た
サマルだったが 今回もまた同じようにいくという
確信がない為か、酷く焦った様子でアレフの後ろへ
隠れるようにしているのが分かった。
「だ・・・め!! させない!!」
「君は?」
大の大人をも上回るアレフでさえ押し返されそうな
攻撃力と腕力で終始 押し合いでは優っていた。
「君は 何が望みなんだ?」
「妹に手を出すな!!」
負けてしまいそうなほどに押されていたアレフだが
それを押し返して 少年に剣を突き立てた。
チラチラとサマルが双方の顔色を伺っているのを
見たアレフは何か事情があるのではないかと捉え
少年の顔を覗き込んだ。
「襲ってきたのは君達だ。
これ以上、怪我をしないうちに立ち去れ。」
「そうだよ レックス君。
あんなに戦うのを嫌そうにしてたじゃないか!」
「こうでもしなきゃ・・・!」
「ナインさんは?リッカさんやロザリーさんは?
なんで君が戦っているの?
君の事情や痛みは知らないけれど どうして?」
悲しそうな顔で訴えかけるサマル。
少女を片手に抱き寄せて怯える少年。
アレフはしばらく様子を見ることに。
したが、どうやらマホトーンの魔封じ以前に回復の
呪文を唱える魔力すら残っていないらしく
このままでは少女が衰弱死するとのこと。
後から聞いた話、少年はサマルの友人だと知った
アレフは少年の妹だという少女にホイミでの
応急処置をし あとは戦線離脱の後に自力で
何とかするようにとアレフは少年に促した。
すると、少年も弱った様子でふらふらと歩いて
森へと静かに姿を消していった。
しかし、サマル君の友人とはいえ敵に変わらない。
本当にこの判断が正しかったのかは分からない。
だが、少年に聞いた話だと 殺すつもりでは戦えず
サマル君に圧されていたところを事情の知らない
少女が竜に変幻し 静止が効かなくなったと。
サマル君も口を揃えて話していた。
それにしても、竜に変幻する呪文なんて人間が
唱えられる呪文なのだろうか?
あんなに狂っていた竜が華奢な少女だったとは。
私にはそんな恐ろしいことは考えられなかった。
「アレフ様、敵の組織の中にまだ友達がいます。
壊滅させないと 友達が危険な目に・・・。」
「お気持ちは分かりますが、今は帰りましょう。
ローレ君も陣地に帰還しています。
判断はロト様とオルテガ様に任せましょう。」
まだ・・・?
あの組織の中に少数が無理矢理に戦わされている?
洗脳?いや、同意した上で戦っているのか。
連戦で ぐったりしているサマル君を抱きかかえて
私は陣地へと帰還することにした。
恐らく、ローレ君も帰還し 手当てを終えている頃。
「ごめんなさい。僕、役に立てましたか?」
「ええ。大活躍です。」
「ぐすん。泣」
やっと いつものサマル君に戻ったな。
戦っているときのサマル君はしっかりしていて
この子は決して弱くないことが今回の戦いで
私はよく分かったのだが、自信さえあれば
この子は何にでもなれてしまうような気がした。
しかし、やはり線が細かった。
先程の少年や少女、サマル君と言いこんな子達が
戦地へと赴かなくてはならないなんて。
未来の世界は一体、どうなってしまったのだろう。
戦いに明け暮れているサマル君を抱いていて
ローラ姫よりも軽く か細いのだ。
どうして、こんな子どもに戦わせるんだ。
齢14歳の少年兵がベギラマを唱えて戦える世界。
私がそのぐらいの歳にはホイミで精一杯だった。
ロト様や私が築いたのは残酷な未来なのだろうか。
ガタッ
ガタッ
ギギギギ
ゴンドラを作動させて陣地へと帰還。
疲れ果てたサマル君の寝顔は天使のようだった。
出来ることならば この子を戦わせない未来を
築くことができればいいな。と感じた。
この子には返り血は似合わない。
ロトの血筋とはいえ・・・。
複雑な気持ちが入り混じっていたのだった。
「おーい! アレフ様だ!!
帰ってきた おかえりなさーーーい!!」
「あぁ、ただいま。」
一方でミナデインでの大ダメージを負ったアレルは
報復として全員を一蹴していた。
天空組の元へ合流したピサロはベホマラーを唱え
戦況を変えたと思われたが、
「ぢぐじょーー!!
面倒くせぇやつ連れて来やがったなぁぁ!!?」
「勇者だろう、貴様が何とかしろ。」
「あんたなぁ・・・💢」
アレルとオルテガの2名が戦場に立ち、
ただでさえ危うい戦況だというのに とある少年の
追撃に行かせた双子からの応答がない。
ソロとピサロが正面からオルテガぶつかり、
レック、ハッサン、テリーはアレルへ挑戦。
ナインはソロの指示通り 双子の捜索。
「・・・・っ!!!?」
返り血?
もしくは自身の流した血なのか?
ふたりの流血によって出来たであろう血溜まり。
しかし、相手はサマルで単独で手負いのはず。
なにをした?
その疑問だけが脳内を支配していた。
状況が把握しきれないが、怪我というレベルでは
ないような傷を負っているのは分かった。
ホイミで応急処置をしたのだろうがレックスは
背中から腹にかけて貫通し、抉られた大きな傷が
あったであろう痕が残っている。
タバサに関しては胸から腰にかけて大きな痕が
残っていて、顔には小さな火傷跡があった。
僕の知っているサマルは容赦なく人を切り捨てる
ような天空組 顔負けの攻撃性の持ち主ではなく
争いを好まない温厚な人間だった。
「間に合った・・・のか。」
「ごめんなさい、魔力がもうないです。
僕はいいから妹の治療をしてください!」
確かに死にはしないように考慮されている。
致命傷に繋がる部分だけに意図的にホイミの呪文で
治癒されていることに気が付いた。
致命傷は防げているらしいが、どう考えても妹は
息をしていない状態で時間の問題だろう。
何度もベホイミを重複させて回復を急ぐ。
その一方でレックスの数を見ていると、抉られた
箇所以外には捻挫や指が曲がっていたり。
軽傷といえば軽傷だが表情を見ればその痛みが
こちらにも伝わってくる。
「僕が弱いせいなんです。」
悲しそうな声で訴えかけるように語るが僕は
その場に居合わせていないから何が起きたかは
何ひとつ分からないが、あえて 聞こうとは
しないでおこう。
今、それを聞いたところでその悲しみや痛みを
蘇らせてしまうかもしれない。
「君は強い子だ。」
「お世辞ですか?」
「君がもっと弱ければ妹は死んでいた。」
ぐったりと横たわるタバサの治療を終えると、
ベホイミの淡い光でレックスを包み込む。
レックスは安心したのか 戦地でありながら
ぐっすりと眠ってしまった。
タバサも気を失っていて、ぴくりとも動かない。
ふたりも背負うのは流石に無理がある。
どちらにせよ、命には代えられない。
通信機でソロに伝言を残し 一足先に都会エリアへ
僕達のアジトへと帰還することにした。
運が良ければ、みんな戻ってこれるのかな。
戦闘の開幕からすぐに気が付いたこと。
勇者ロトが格上という次元ですらなかったことと
この世界に来た勇者達を見ていて 生身の人間が
僕達、天使以上の生命力を持っていることもある。
以前なら とても理解が追い付かないことだが、
バトルロワイヤルの開始と共に雪山エリアから
始まった僕はレックを見てそう感じた。
その彼ですら勇者ロトには遠く及ばなかった。
ガチャ
俺は仲間達が時間を稼いだ隙に無線を確認。
「ふたりが危ない、陣地へ帰還する。」
・・・だと? ふざけているのか?
天空人だったか天使か分からないが、人間にない
特別なチカラか何かで治療できるだろう。
何が「〜陣地へ帰還する。」だ。
徐々に戦況は入り乱れ、お互いに消耗をしたからか
ダメージの大小を気にしていられなくなっていた。
相変わらず勇者ロトは回復呪文を唱えないが
俺達は心身共にズタボロになっている。
ごつい男が手助けをしてくれているが、
所詮はただの武道家ってとこか。
しかし、呪文のひとつやふたつが唱えられる以上
アリーナよりも頼りになるのだろうか?
「お前らーーー!! 撤退だ〜!」
同じタイミングで無線を確認したレックは
自分勝手な判断で叫ぶと 勇者ロトとやらは
俺達を逃したくないようで無鉄砲に特攻するが
ピサロとテリーの息を合わせたジゴスパークで
足止めをし、レック側についたごつい男は
老いた勇者へ目掛けて巨大な岩石を投げつける。
そのタイミングでレック達3人組は逃走し、
俺が辺りを見渡した頃には既にピサロは姿を消して
いた為か、俺はひとりで陣地へ戻ることにした。
「じゃあな! 次会うときがあんたらの命日だ!」
{ピサロ…無事でいてくれ。}
シュンッ!!
「ばーか! そっくりそのまま返すぜ!」
「わしらに挑戦など百年早いわ!!」
「百年後にはアレフが生まれてるよ 父さん!」
「うむ。」
傷だらけで帰還をした天空組は その場に倒れ込み
夕暮れの赤で照らされ、誰のものかも分からない
返り血で汚れていた。
負傷と疲労、精神的ダメージによって立つことすら
ままならない状態だった。
特に勇者ロトを相手にしていたレックら3人は
重傷を負っていて、都会エリアに戻ってからは
安心したのか死んだように眠っていて、回復呪文を
受けてもなお ピクリとも動かなかった。
そんな彼等を心配したのか 一足先に陣地へと
戻っていたレックスは回復しかけていた魔力を
全て使ってまで何度もベホマラーを唱えていた。
魔力が尽きたと思えば完全に唱えられなくとも
ホイミを必死に唱えようとしていた。
「もう、やめときな。
ベホマズンをかけておいたから無事なはずだ。」
「でも!少しでも痛むなら!!
いつも助けてもらってるから 僕が助けなきゃ!」
「こいつら…特にレックに毎回ボコボコにされてる
のによく助けようとなんて思えるな。」
もう治療を施さなくても助かるのにも関わらず
こいつが体内に戻りかけていた魔力を使ってまで
こんな戦うことしか考えていなさそうな連中を
助けようとしてレックスの自己犠牲の精神を
育てたくなかった。
旦那やナインからは勇者であり王子だと聞いている
が、全くそんな風には感じなかった。
本人から聞いた過去も含めて考えると こいつからは
王子というよりも騎士の精神的な なにか?を
強く感じて 生まれた時代が同じなら仲間以上の仲に
なれたのだろうと、心のどこかで思っていた。
歳が離れているが本当は直接、友達として。
関わりたいんだろうな、勇者に先輩後輩もないし
優劣なんてないが、歳のせいで いつの間にか先輩
として振る舞ってしまっている自分に腹が立った。
「僕は仲間だと思ってるんです!」
「こいつはあんたを思ってないかもよ?」
「そんなこと・・・・・・。」
「勝手にしな。」
仲間達が摩天楼へと戻っていく中、道路の真ん中に
倒れているレック達を除くと 俺とレックスだけが
歩道に取り残される。
小瓶に入った まほうのせいすいをレックスに
手渡して 俺は陣地へと帰ることにした。
言っても無駄なことを察したが、無理する姿を
これ以上見たくもなかったものの やめさせるには
こいつの納得行くまでやらせればいいと考えた。
陣地のロック式の鋼の自動ドアを作動させる。
「インパス!」
ガシャ
ウィーーン!
「また あとでね。」
「・・・はいっ!」
その夜、天空組を追い払った勇者ロト一家のこと。
勇者オルテガのやる気とアレルの怒りのきっかけを
作り上げて 奮い立たせたサマルは 戦闘を終えた
その後 こっ酷く叱られたが同時にその成長を
大いに認められ、誉められていた。
いつものようにお世辞に近いものと違って感じた
のか、サマルは全力で喜んでいた。
そのサマルの様子を見て全力で可愛がっていた。
しかし、苦戦していた竜を一撃で撃沈させた
アレフに若干の嫉妬の念を抱いていた。
「アレフ様から聞いたぞ!
お前 でかい竜と殺り合ったんだってな!!」
「うん、ほんの一瞬ね。」
「嘘つけ! 大活躍じゃねーかよ!」
「そっか、嬉しいな。」
{僕にひとりで対処する実力があれば。}
やけに胸の奥が苦しい。
いつも僕に戦いを教えてくれる人が。
いつも僕の兄として背中を押す人が。
いつも僕が失敗したら叱ってる人が。
普段はこんなにも誉めてくれることないのに。
本当は僕よりも活躍したかったんだよね…?
僕の成功よりも自分の実力を悔やんでるのに。
なんで痩せ我慢してるの?
僕に打ち明けないの?頼ってくれないの?
苦しいのは僕じゃなくて貴方だって??
冗談じゃない。
「心配したよ。いきなり突っ込むんだもん。」
「俺はナインが許せなかったからな。
それに今は奴に辿り着けないどころか目の前の奴
に足止めされてロト様のようにいかなくて。
そんな自分が許せないんだよ。見てたよな。」
「あの場にいたのはローレだったからだよ。
僕やムーンがあの剣士と戦ったら死んでたよ。
結果がカタチにならなかっただけさ。」
「そうかよ、つまんねえな。」
なんだよ つまらないって。
僕だって成功したけど大成功したわけじゃない。
平均点を上回っただけで満点は取れていない。
求めるものを掴めなかったのは お互い様だろ。
君だけが辛いわけじゃないのさ。
戦いに出ることすら許されなかったムーンは?
見ているだけだって辛かったはずだろ??
「今まで強い奴を見て 面白いって感じてたけど
こんな惨めな思いをしたのは初めてだった。」
「痛いほど分かるよ、いつもそうだった。
何なら今日もそうだったよ。
そんなこと一回一回、気にしてたらローレ達に
置いていかれるから気にしてないふりしてた。
だから周りが僕を非力だと思ってるんだよ。
ローレだってそう思ってたんじゃないの?」
「さあな? じゃあ周りが〜…って言うなら
その周りに成功したって胸張って今日のことを
言ってみろよ、いい気持ちするんだぜ?
思い出してみろ、周りに誰がいた?
競うべき相手か?家族か?大切な誰かか?」
!?
大切な誰か。
そうだった 僕に期待してくれてる人がいた。
僕の非力を可能性と捉えてくれる人がいた。
何故か、頑張ろうって気分にさせてくれる人。
「そうだね。いーっぱい自慢してみるよ。」
「おう、今日は何となく普段のお前がなんで
戦闘の時に怯えてるのか分かった気がするぜ。」
「分からなくていい! 怯えてもないから💢」
でも、戦いが好きな人の気持ちが何となく。
分かったような気がしたんだ。
勝てる確信があるか、勝てる戦い方を知ってる。
そして、強いと認めている相手に勝つからだ。
逆に誰にも勝てないと錯覚して戦っていた僕は
戦うことが好きではなかったんだ。
ザラキを習得したから 勝たなくても勝負をせずに
戦いを終えることができることを知った。
人間相手にこの呪文を唱えられるのか、実際に
唱えたこともないし それを使用できたとして
僕はその呪文を人間に使うのだろうか。
たとえ、憎い人間でも この呪文を使うことは
決してないだろうと既に気付いていた。
同時刻の都会エリアの摩天楼上層の大浴場。
たったひとりで鏡の前で悲しそうに俯く。
「この鏡の奥にいるのも俺自身。
じゃあ、君は一体 何処にいるって言うんだ。
心の中っていうのは一体 何処なんだ?
俺を守って、君は今 本当に幸せなのか?」
鏡の奥にいる相手に手を伸ばすが その奥には
手が届くはずもなく。
温もりすらも感じない無機物の壁に手が触れる。
本当はこの奥で生きているのか?
そもそも本当に俺の中で生きているのか?
死んだと思いたくない俺のエゴなのか?
なあ、シンシア。
俺はもう絶対に負けないと誓ったはずだった。
俺はもう誰も失わない決めていた。
たかが、一個下のあいつに勝てない。
まるでバケモノを見ているようだった。
背丈は俺よりも高いが、そうじゃない。
何か とてつもない大きな壁が聳え立っている
そんな風に感じて 恐怖心を抱いていた。
エスタークやデスピサロ、エビルプリーストとは
真逆で、あいつは世界を救った勇者であり
恐らく生身の人間であることには変わりない。
あいつの世界を脅かす魔王とやらは、一体どれほど
凶悪で強大なチカラを持った奴なんだ。
「シンシア、やっぱり俺はあんたがいないと
・・・・・・俺、生きていける気がしないよ。」
また、甘えたことばっかり吐いて。
もういない人間に甘えて どうするんだ。
それに 人を殺めてまで生き返らせたとしても
シンシアは俺を許してくれるはずがない。
分かっていたとしても 俺のエゴが俺を操る。
たとえ二度と会えないというのが真実だとしても
俺は永遠に幻想と理想を追い続けるだろう。
あの日、本当は俺が死ぬはずだったんだ。
だから シンシアさえ生き返りさえすれば、たとえ
俺が滅んだって構わない。
後世には後を継ぐ勇者が生まれて未来を担える
人間も少なからずいることは分かった。
天国や地獄なんて都合の良い場所があったとして
その世界の中でシンシアに巡り会えるかすらも
分からないのにそれを待つのは愚かに感じるから
勇者として世界を平和にしたのなら次は俺が勇者
として ひとりの人間の為に戦ってもいいだろう。
・・・〜僕は またダメだったな。
結局、妹の前なのに負けてばっかりだ。
レックさんには雪山と汽車の内部、陣地の運動場の
全ての戦いに負けてしまっている。
サマルさんは初対面の時にボコボコにされて勝負は
勝てなかったけど倒すことはできた。
それ以降は倒すことも勝つこともできないけど。
正直、今回は勝てる気がしたのにな。
ただでさえレックさんのビックバンに当たっていて
フラフラだったのに僕を倒し、タバサを軽々と
退けて ドラゴラムまで使わせた。
なんで あんなに強くなったんだろう。
あの人だけが強くなったんじゃない。
本当は気付きたくもないけど、僕が弱いままで
みんなが強くなってゆくんだ。
妹ですら、勇敢に戦っていたんだ。
あんな蹴り技…僕にはできる気がしない。
残された才能、剣の技術で妹に負けて 妹も同じく
ギガデインを覚えたら僕は必要なくなる。
別に妹に劣っていても構わない。
小さい頃に僕は妹に酷く嫉妬されていたことも
よく覚えているが、僕が不要になったとしたら
元の世界では生きていたくなくなるのだろう。
それが怖いんだ。
あの時の妹もそう感じていたのだろう。
「どこか痛むの?」
「・・・お空にとけて消えてしまいたい。」
あの日、妹が嘆いた言葉をそのまま返す。
本当は勇者が吐ける言葉でもないし弱音は勇者に
似合わないことも知っているけど。
家族の前でくらい 素の自分でいたいんだ。
同じタイミングで生まれたんだから 僕は兄ではなく
弟でも良かったはずなんだ。
少しだけ、少しだけ。
今は兄じゃなくて 弟になりたい…。
たまには 勇者をやめて、精一杯甘えたいんだ。
「よしよし、お兄ちゃんはよく頑張った。」
「・・・ぐすっ。」
俺らってさ、乱暴以外に何があるんだ?
向かうところ敵なしだったはずだろ?
俺らの良いとこ全部兼ね備えた野郎がいたなんて
まるで 俺らなんて要らねえみたいじゃんか。
「呪文の精度はよかったしな。」
「俺やハッサンより怪力だったしな。」
あの勇者はミナデインですら耐えていた。
それにあの勇者は回復呪文を使用せずに俺達+a
に舐めプしてたようにも見えて腹が立った。
テリーに関しては三下にボコられたらしいし
俺も一瞬で意識が吹き飛んだ。
あいつひとりだとしてもデスタムーアが何人いても
余裕だという笑みは見せ続けるのだろう。
「むしろ、お前は燃えてるんじゃないか?」
「んなわけねえ!何ならあいつに勝てるんだ!」
「ははは、テリーもレックもあいつよりも全然
かっこよさで勝ててると俺は思うけどよ!」
・・・そうだな。
あいつはブサイクだ。
んで、俺らはイケメンだ。
一回ボコられただけで落ち込むなんてのは、
「俺ら」らしくない。
この世界で生きていたんだ、またあいつと戦える。
ビビってる奴がいるなら 俺らが喝入れる。
それで良いんだ。
あくまで勝つのは「天空組」ではなく「俺ら」だ。
勇者ロトにも 旦那にも絶対に勝たせない。
奴さえ倒せば 後は全員が雑魚と言っても過言でも
なさそうだから 今度こそ向かうところ敵なし。
それにあの時に見た 白いライデイン の術者にも
まだ戦えちゃいないし 負けられないんだ。
殺し損ねた 緑のクソガキもぶっ殺したいし、
最後にはソロとも決着をつけたい。
「俺、まだ死なねえや。
夢の世界にいるランドやジュディ、ターニアにも
もう一回 会いに行きてえし乾杯がしてえし。」
「任せな!地獄まで付き合うぜ、」
本命は違うけど、夢の世界をもう一回で良いから。
行きたい またあいつに逢いたい、あいつに。
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あとがき。
戦いが無事に終わりました。
次の激しい戦闘は数話後になるかと思います。
次回が天空組の後日談を中心に物語を進めて
その次ぐらいにロト陣営の後日談を書いて
ピサロのその後の消息を書いたりもしたいです。
ただ、序章のルール説明にルーラ禁止してたはず
でしたが もう一度序章を見ていただけたら分かる
通り ルーラ解禁してルール変更です。
が、陣地にのみ帰れるというルールに設定をした為
物語の進行がおかしくなることはないと思います。
双子が大活躍する話が書けていないので次の
天空組とロト一家+その他
の戦いを越えた先に レックス君とサマル君の
目立つような話を書こうかと思ってます。
一応、天空側の主人公はソロのつもりで物語を
書いてるんですが、まだ主人公っぽいことを
させてあげれてないですが、レックスの師匠?
的なポジションになってたり兄貴分になってる
かと思うので まだ活躍させてないキャラ達を
活躍させた後に目立ってもらおうと思います。
4話、12話、18話に発揮したサマルの中に秘めた
不思議なチカラの発揮はだいぶ後に分かるように
なるかと思いますが、気にいる方と気に入らないと
感じる方に分かれるかと思います。