月刊小笠原諸島238
小笠原諸島の火山2024
福徳岡ノ場
父島大村海岸に漂着した福徳岡ノ場由来と思われる軽石群(20240721)
転載:科博メールマガジン第963号
◆ 筑波研究室トピックス ◆
海底火山を調べる
2021年に噴火した際、大量の軽石が沖縄等に漂着したことが記憶に新しい、
海底火山「福徳岡ノ場(ふくとくおかのば)」の調査航海について、当館地学
研究部の谷健一郎研究主幹にお話を聞きました。
「福徳岡ノ場」は、東京の南方1300kmにあり、海底噴火の過程が観測で捉
えられた、世界でも稀な海底火山です。
Q1.今回の2024年の調査航海の目的を教えてください。
谷:噴火直後の2022年に行った調査航海では、福徳岡ノ場火山周辺の海底は
噴火による火山灰で厚く覆われ、海底で暮らす生物たちにも大きな影響があっ
たことが明らかになりました。今回の調査の目的は、噴火から3年が経過した
現在の福徳岡ノ場周辺の海底を調査して、生態系の回復過程を調べると共に、
2022年の航海では台風の影響で調べることができなかった場所の地形調査と
噴出物の採取を行うことでした。現在は航海中に収集できたデータやサンプル
を分析しているところです。
Q2.調査船上で苦労したことや、印象に残ったことがありましたら教えてくだ
さい。
谷:今回これまで使用していた調査船よりも、だいぶ小さな船を初めて傭船(
ようせん)させてもらいました。正直、最初は遠方の福徳岡ノ場まで無事に行
けるのか、少し心配でした。でも実際は船員さん達がとても気さくで、初めて
の観測にも臨機応変に対応してくれ、船も小回りが利いたため、当初の予定よ
りも大きな成果を挙げることができました。
また船の料理長がすごい腕前の方で、毎日のご飯がとてもおいしかったです。
昼食にタイ料理の本格カオマンガイが出てきたのにはびっくりしました。
Q3.福徳岡ノ場の調査航海で、博物館の研究者として参加する意義などはあり
ましたか?
谷:今回の調査は総合研究「極限環境の科学」の一部として実施しました。こ
の研究では地学・動物・植物の研究者が一緒に調査研究することで、極限環境
をつくりだしている地学現象と、そこに生きる生物との関係を明らかにしよう
としています。
海底火山の地学的現象を明らかにするのと同時に、海底噴火による生態系への
影響を調べるというのは、世界でもまだほとんど例がなく、いろんな分野の研
究者が垣根なく一緒に研究できる、科博ならではのプロジェクトです。今回の
調査ではいくつかの大学の若手研究者や学生にも乗船してもらい、研究交流を
深めることができました。今後、サンプルの分析から得られる成果が楽しみで
す。(一部読みやすく下線など加工しています。)
