巷で話題の、村上春樹最新作。大変な売れ行きのようで、札幌の大型書店でも品薄状態です。


二つの物語がパラレルに進行していき、徐々に交錯していく、という、村上氏のお決まり(?)の手法のこの作品。

現実だか非現実だかわからなくなってくるような、彼独特の世界観も健在です。しかし、今までの彼の作品とはひとつ決定的に違うところがあります。主人公が三人称なのです。


いままでの彼の長編作品の主人公は、ほぼ必ず一人称の「僕」でしたが、本作では、スポーツインストラクターの女性・青豆と、予備校教師兼小説家・天吾という二人の主人公の物語が、交互に繰り返されています。

必ず「僕」から見た主観的な世界観で描かれていた村上作品ですが、本作はそれよりは一歩引いた、客観的な視点から彼の独特な世界を眺めていくことになります。


さて、本作の大きなテーマは、「内側から見た新興宗教、カルト教団」といったところだと思います。


青豆はスポーツインストラクターという「表」の仕事の傍ら、ある「裏」の職業も持っていました。また、天吾は「ふかえり」という少女の語った物語を、ゴーストライターとして出版します。その二人の背後に、ある組織が浮かび上がります。


ここでは詳しいネタバレはしませんが、この組織はまあ簡単に言うとカルト教団です。本作では、さまざまな角度からこの教団のもつ「力」のようなものが浮き彫りになっていきます。オウム事件についてのノンフィクションも書いている村上氏からのメッセージなのでしょうか。

作中で頻繁に登場する謎の人々(?)・リトルピープル。これは何かの隠喩だと思います。「宗教に簡単に騙される無力な人々」という感じでしょうか?



このほかにも、明らかに「エホバの証人」をモチーフにした新興宗教団体が登場します。明らかにそれに対する批判的な部分も見られます。





相変わらず難解で、何を本当に言いたいのかは読み取りづらい村上作品。また、そんな文章をスラスラと読み進めさせてしまう村上春樹の筆力は流石だなあと思います。彼の文体は好きです。



最後に、この作品はたぶん続編が出ると思います。