ハートのパレード・第2話「天使になンか為れないけど」⑦
7.「壱汰さん」「なした?」「壱汰さんが買ッて来てくれたコレ、一応持ってッた方が良いよね?」云って、手にしたコンビニの袋を差し出す。中身は、唐揚げ弁当とサラダ、コーラゼロ。ソレゾレふたつずつ。中々に、バランスの良いメニューだッた(飽く迄、当社比)。「まンずな、アレなも、唐揚げぐれェだば喰うべ」「んだね」摘みには、確かに為りそうだ。「本トは、オメどさ喰へでがったンだどもなー。マダ風邪コ引いで倒れられれば困るし」「彼の説は、ホント済みませんでした........」今、其れを思い出しますか。壱汰さん.......恥ずかしい。「にゃっはっはっはっ!此の儘、オメどご俺のヒモにしてけでェんだどもなァ。なンたッて、銭ぇんこ無ぇがらなー」「...............」酒を飲まなかッたらしい、壱汰さん運転の車内は、こンな風に賑やかだッた(殆ど壱汰さんが、と云う蛇足は、可哀想なので割愛させて頂く)。※ソンナこンなで、途中のコンビニで麦酒等を追加購入した後(序でに僕の分の煙草も買って貰ッた)小鳥遊さん宅に到着。「誠治ー、来たどー。キリンラガーで良いなだがー?」壱汰さんが、玄関を開けて直ぐ、部屋の主に呼び掛ける。「其れハァ良いども、アレや。美少年連れで来たがでゃ?美少年」いらっしゃい、の一言も無く、部屋の主は赤ら顔でコウ宣ッた。イヤ、先生。行き成り過ぎでせう。苦笑いを浮かべて居ると、「ホレ、コゴさ居だ」僕の肩を抱き寄せ、差し出す様にする壱汰さん。太鼓の部族に於ける、生贄に選ばれた人の心境が、何と無く判った様な気がした。「静哉......いがった、来てけで........むゥ」「ワォ」思わず、欧米風の感嘆詞を弄し乍ら、ウッカリと小鳥遊さんの大きな身体に抱きすくめられ、「ホレ、高い高ァーい」ヒョイ、と抱き上げられてしまッた。「壱汰さん、リアルに助けて。コワイ」「堪えれ、其のウヂ、気ィ済めば寝るがら、此の男は」「今夜は寝させねェやー?ヘッヘッヘ」「と、仰って居ますが」「なんじが為る、多分な」「.......無理ぢゃネ?」不安は残れど、取り敢えず、此の助平で強面スカーフェイスな巨人と旧知の仲である壱汰さんの云う事を信じてみよう。ウン、そうしよう。※そンな訳で、僕は何故か小鳥遊さんの膝の上に鎮座ます事と為った。何故。「静哉、オメなンだが元気ねェごど」「.......え?」赤ら顔の小鳥遊さんが、僕を抱き寄せ乍ら出し抜けに、僕に尋ねる。因みに、壱汰さんが買って来た麦酒(500ml)も、モウ2本目を開けて居る。確かに、元気は無いンだろう。壱汰さんが、僕の先日の無礼を乗り越えて、ソレでも僕が好きだ、と云って呉れたのは、先刻。其れを、未だに僕は信じられずに居た。自分でも判ってる。随分な拗らせ様、だと。「静。オメ未だ、俺がだどご特別視して、自分どご卑下してらンだべ?」「エッ、エッ?」「なぃ、んだながァー。何も心配なのさねくていいなサー」「んだヤ、静。俺がだ揃って、ぼっこれ(ぶっ壊れ)親父の集まりだヤー?オメなの、マドモ中のマドモだべしゃァ」ソウ云って、壱汰さんは、小さな緑色の手帳を、徐ろに長財布から取り出した。「障害者手帳」の6文字が、金色に光って、カバーの上に並んで居る。「んだァ、ホレ。俺の左目だッて」小鳥遊さんも、同じ型の赤い手帳で、左目の大きな傷を指して見せる。「ホント、だったンだ.......」息を飲む。本当に、ソレしか出来無かった。「なぃ、オメ。アレ、嘘だど思ッたったながァー。 ひンでェヤヅだなァー。にゃっはっはっはっはっはっはっ!」御免なさい、俄かには信じ難かったモノで。心の中で、自分の頑固さに依る非礼を詫びる。「壱汰ァ、オメ静哉さあのゴド、喋ったながァ?」「おぉ、此れがら俺の大事だ人に為るがもさねェがらナ!」僕の肩を抱き寄せ、シレッとソウ云ってのける壱汰さん。「静哉ァ、オメ嫌んだば嫌んだッて、正直に喋れェー?」云い乍ら、ケタケタ笑う小鳥遊さん。ホント、素面の時とイメージが違う。顔の右半分で、少し引き攣り加減に笑う姿が、妙に新鮮だッた。「寧ろ、ソウシテ欲しい位です」僕の発言に、2人のおじさんがほくそ笑む。「こンな、自分の大事さが判って無い様な奴で良かったら、ですけど」つい、余計な一言が口を吐く。悪い癖だ。すると。がしっ!「静哉!オメ、いっぐ聞げ?」「は、ハイッ!」「オメは、なしてそンたに自分の失敗どごばり、責める!?昨日のアレだッて、んだッたべ!?」「.......」僕の肩を、壱汰さんから奪い取る様に抱き寄せる、小鳥遊さん。「んだヤ、静。彼の時も、モヂロン今だッて、オメどご責めでナ、居ねェんだや?」壱汰さんが、頭を撫でて呉れる。2人のおじさんに慰められ、ウッカリ涙腺が決壊しそうに為る。其処、に。「アド、オメ来週のアルヴェでのライヴ、出ねェんだが?」小鳥遊さんが、出し抜けに尋ねる。「......だッて、僕じゃァ未だ........」「出れ、静哉。1週間で仕上げで、俺がだど出るなだ。判がッたが?ボンズ」至近距離で、ガンを飛ばす小鳥遊さん。しかし、何処か優しげな、瞳。全然、威圧的でも無かッた。「........」僕が、口篭っていると。「静」「え?」壱汰さんが、呼び掛ける。其の視線も矢張り、真剣其のモノ、だッた。「冗談で生ぎれ、静。其の方が、ヨッポドが、楽しい」綻んだ、壱汰さんの笑顔を見るに付け、「........御免なさい.......」又、泣き出してしまッた。今日は、ズッと泣きッ放しだ。何だろう、安心した所為、なンだろうか。違う。自分より、凄まじい苦労をしたで有ろう大人がこンな眩しい笑顔で、言い切ッたから。だ。「うふゥッ.......自分ばかり不幸ぶッて.......ひっく......本当に、御免なさい」「なンもヤ、そンた事、してねェべ?」壱汰さんの、優しい声。と。「オメだば、ほンと心配性だな.....」小鳥遊さんの、低く響く、呆れた様な声。「マ、そンたどごも好ぎだどもナ?」「「エェッ!?」」「.............」唐突にブッ込まれたネタ.....かと思いきや、ドウやら本気だッたらしい。「安心しれ、壱汰。取ッたりなの、さねェがら........アァ、酔い醒めで来た」少しずつ、何時もの小鳥遊さんに戻りつつある。「まンず、飲め?」薦めちゃッてるし......。「ホレ、静哉も!」「ハイッ!?」「........父さんど一穂さは、内緒にして置ぐがら。ナ?」イヤ、そンな事、仰られましても.......。僕、家で偶に、父ちゃんのワインをチョロまかす位しか、飲まないんンですが。「.............戴きマス」本当に2人が内緒にして呉れる事を祈り、僕は壱汰さんが差し出す、缶酎ハイを受け取ッた。えぇ、ワタクシ山崎静哉は、おじさんの潤んだ瞳に負けました。※翌日、朝方まで飲み明かした僕達は揃って二日酔いに為り乍ら、朝を迎えた。酔ッ払い乍らも、憶えて居た。壱汰さんの言葉。「冗談で生ぎれ、その方が、よっぽが楽しい」。其の言葉が、僕の勇気を何処までも、奮わせる。モウ、真面目腐って「自分の存在意義」に尽いて考えるのなンか、止めだ。天使なンかじゃ無くても、今だッたら羽ばたけそうだ。【次話に続く】