昨日は久しぶりの雪。すっかり春を期待していた大人には、ちょっとがっかりの雪も、子供にとっては喜びの種。

さっそく、なおと君は、学童の友達と一緒に、雪だるまをつくりました。

 

 学校の校庭は整然と真っ白な世界で、雪だるまの目や手になるものは、全く見当たりません。

なおと君は、雪だるまに、せめて手だけでも、と自分の手ぶくろをつけてあげました。

 帰宅して、お母さんに「てぶくろは?」と、聞かれたので、

「学童に置いてきた。」と言いました。

確かに嘘ではないから、「いいよね、」と、自分にも言いきかせました。

 

 夜、満天の星と お月様が、何もない広々とした校庭を てらしました。

雪野原となった校庭に、星たちの輝きが反射して、とてもとても美しい夜でした。

すると、さっきまでシンと、静まりかえった校庭で、誰かが話す声がしました。

 

「こんばんは、君は新しい顔だね。雪だるま君」

お月様でした。お月様は、なおと君の雪だるまに話しかけてきました。

「やあ、お月様、こんばんは。 ぼくは今日、生まれたんだ。」

目も鼻も口もない 雪だるまでしたが、その口調は とても ほこらしげです。

 

「すてきな手ぶくろだね。」

風がきて、

「一緒に空へ飛ぼうよ!」と、誘いました。

雪だるまは、

「あした、なおと君がきて、ぼくに顔をつくってくれるまで、ここから動かないよ。」

すると風は、

「子供なんて、すぐ、君のことなんか忘れてしまうよ。ゲームとか、ユーチューブみるのにいそがしいからね。」

と、ちょっとおこった感じて強く吹きつけました。

「いや、だいじょうぶ。 だって、ぼくには なおと君のてぶくろが ついてるもん。」

風のいきおいでも その手ぶくろは取れません。風は、さーっとひと吹きして、いってしまいました。

 

 

夜遅くなって、雪の花があだたら山から舞い降りてきました。

満天の星空のもとに雪花がふりそそぐさまは、この世の宇宙のようで、とてもとても美しい光景でした。

それを見た雪だるまは、きらきら輝く夜空が降ってきたのかと、びっくりしました。

雪の花たちが声をかけました。

「やあ、雪だるま君。いいてぶくろだね。でも、私たちが、真っ白にしてあげたら、もっときれいになるよ。

するとあわてて雪だるまが言いました。

「やめて、僕はこれが気に入ってるんだよ。それに、あした、なおと君が来たとき、真っ白になってたらぼくを見つけられないでしょ。」

それを聞いた雪の花たちは、ちょっと、からかったかんじで、言いました。

「なおと君って、ほんとに明日学校にくる? もしかしたら、風邪ひいて休むかもしれないよ。」

雪だるまは、ムッとして言い返しました。

「いや、だいじょうぶさ、ぜったい来るよ。

今日はあんなに元気だったし。それに、ぼくを かんせいするって やくそく したもん。

ぼくは、なおと君を しんじてるよ。」

この言葉を聞いた雪花たちは、雪だるまの上を、チラチラとまいながら、行ってしまいました。

 

 

夜明け近くになって、お月様がいいました。

雪だるま君、いよいよ太陽が昇るよ。君の友達が来てくれるといいね。 明日の夜も君にあえるのを楽しみにしてるよ。君の顔がどんなか楽しみだな。」

 

「ありがとう、お月様。そういってくれて。

おかげさまで、ぼくも まってる ゆうきが でてきたよ。 ありがとう!」

 

そう、雪だるまも、長い長い夜の時間を過ごすうちに、だんだんと孤独に、寂しくなってきてました。

風が言うように、なおと君は自分を忘れてしまったかも。雪華が言うように学校に来ないかも。

でも、雪だるまは、なおと君を信じて待つことにしました。

そう決めたら、

心も寂しくなくなって、わくわくする気持ちがでてきました。

 

あさ、学校に子供たちの元気な声が聞こえ始めました。

「おはようございまーす。」 「おはよう。」 

「おはよう。」 「おはようございまーす。」

なおと君の声です。お母さんと手をつないで、元気に挨拶をして、やってきました。

「あ! ぼくの手ぶくろ!」

校庭を通りすぎようとしたお母さんの手を強くひくと、

まっすぐ雪だるまのところに戻っていきました。

 

「昨日のまんまだ。よかった。きょうは完成させてあげるね。」

「だから、今日、スキーウエア―が欲しいって、言ってたのね。確かに、雪遊びには必要だね。」

 

この会話を だまってきいていた雪だるまは、にこにこ まんめんの えがおを うかべていました。

でも、まだ顔ができていなかったので、だれも その笑顔を見ることは できませんでした。