――頭上から降り注ぐそれが眠りのように飛んだ意識を覚まさせたことに気付き、その直後に四肢の自由が効かないことに気付く。
息を吸おうにも吐こうにも、猿轡として固く縛られた布が邪魔をする。
ここはコンピューター室の右隣にある機材保管室。
「頭冷やせや、ボケ」
明らかに男性のものだとわかる低さと口調。
それは大高のものだった。
前髪を鷲掴みにして、黙ったまま猿轡の下に十徳ナイフを滑り込ませる。
「お前が持ってたライフルは今はこっちが持ってる。大声を上げたら先ずは肩を撃つ」
温かい吐息が耳を掠める。
刃先を布に触れさせ、そのまま布を裂くかと思われた一瞬、肌に痛みを感じる。
刃先を戻し、頬に擦りつけているのだ。
勢いよくナイフを引き抜くと、その行く先を血液が追った。
大声は痛みに悶える時間すら与えず、今度はナイフの先端部分を顎に突きつける。
「アハハハハハハハ!! 面白い話をしてやるよ。俺の親父は難病を抱えててな、医者も精一杯手を尽くしたが、治らないらしい。宣告されたのが、余命半年。今日は何の日だと思う?
今日がちょうどその日だよ!!
何があろうが、親父の死に立ち合う筈だったんだ。でもお前等の所為で出来なくなった。
おい、お前の片眼でも潰して償えや」
感情に乗っ取られた大高の刃の先が、一旦持ち上げられ、瞬時に振り下ろされる。
―――しかしそれは、次に聞こえたドアをノックする音によって阻止された。
「大高さん? あたしよ、内田。見張り、そろそろ交替しましょ」
十徳ナイフは駄々をこねることもなく、ポケットへと帰っていった。
ここで断るのも不自然か。大高は平静を装った声色で素直を取り繕いながら応答した。
「そうだね。次、頼めるかな、内田さん――」
言い終えると、大高はまた男を睨みつけ、舌打ちをする。
「折角いいところだったのによ。悪運が強いんだねぇ。でもこれで済むと思うなよ」
ポケットに両手を突っ込んだまま、大高は逃げるように、足早にそこを退場した。
「ああ~…、サッパリわかんねえ。何の絵なんだ? これは」
お手上げと言った様子で塚越が唸り声を上げる。梓が背伸びの後、一同に問う。
「ッうぅーん。皆、ジュースでも買ってこようか? 今回はあたしの奢りで。幾ら緊迫した状況だって、ちょっとは休まないと後々保たないよ」
長野邦子が真っ先に賛同する。
「賛成。あんた気がきくじゃん。じゃあ御言葉に甘えて」
息を吸おうにも吐こうにも、猿轡として固く縛られた布が邪魔をする。
ここはコンピューター室の右隣にある機材保管室。
「頭冷やせや、ボケ」
明らかに男性のものだとわかる低さと口調。
それは大高のものだった。
前髪を鷲掴みにして、黙ったまま猿轡の下に十徳ナイフを滑り込ませる。
「お前が持ってたライフルは今はこっちが持ってる。大声を上げたら先ずは肩を撃つ」
温かい吐息が耳を掠める。
刃先を布に触れさせ、そのまま布を裂くかと思われた一瞬、肌に痛みを感じる。
刃先を戻し、頬に擦りつけているのだ。
勢いよくナイフを引き抜くと、その行く先を血液が追った。
大声は痛みに悶える時間すら与えず、今度はナイフの先端部分を顎に突きつける。
「アハハハハハハハ!! 面白い話をしてやるよ。俺の親父は難病を抱えててな、医者も精一杯手を尽くしたが、治らないらしい。宣告されたのが、余命半年。今日は何の日だと思う?
今日がちょうどその日だよ!!
何があろうが、親父の死に立ち合う筈だったんだ。でもお前等の所為で出来なくなった。
おい、お前の片眼でも潰して償えや」
感情に乗っ取られた大高の刃の先が、一旦持ち上げられ、瞬時に振り下ろされる。
―――しかしそれは、次に聞こえたドアをノックする音によって阻止された。
「大高さん? あたしよ、内田。見張り、そろそろ交替しましょ」
十徳ナイフは駄々をこねることもなく、ポケットへと帰っていった。
ここで断るのも不自然か。大高は平静を装った声色で素直を取り繕いながら応答した。
「そうだね。次、頼めるかな、内田さん――」
言い終えると、大高はまた男を睨みつけ、舌打ちをする。
「折角いいところだったのによ。悪運が強いんだねぇ。でもこれで済むと思うなよ」
ポケットに両手を突っ込んだまま、大高は逃げるように、足早にそこを退場した。
「ああ~…、サッパリわかんねえ。何の絵なんだ? これは」
お手上げと言った様子で塚越が唸り声を上げる。梓が背伸びの後、一同に問う。
「ッうぅーん。皆、ジュースでも買ってこようか? 今回はあたしの奢りで。幾ら緊迫した状況だって、ちょっとは休まないと後々保たないよ」
長野邦子が真っ先に賛同する。
「賛成。あんた気がきくじゃん。じゃあ御言葉に甘えて」