「わかった。しかし、作戦を決行する前に、役割分担をしよう。ここでパズルを完成させる人と、探す人。万が一の為に、皆がお互いに連絡を取る為にメールアドレスを交換しあおう」
「おいおい、何でそんな必要がある? 万が一って何だよ?」
茂央が言い終えると舛谷が問うたが、大高は鼻で笑った。
「わからないのか? これはパズル探しなんかじゃない。所謂頭脳戦だ。奴等は俺達がパズルを完成させようが安田を殺す。それは揺るがさない。なら俺達自身が安田を救うしかない」
舛谷は黙ったが、それで終わると思っては間違いだった。長野邦子が続けて問う。
「だったら、パズルを完成させること自体意味がないわ。役割分担も必要ないと思うけど?」
「パズルを完成させれば、奴等は職員室へ入ることを許すはずだ。そこを狙って安田を助ける」
「奴等は皆、一人ずつライフルを持ってるのよ? 入れたとして、どう助ける気?」
「それもこれから考える」


――女子トイレに自身を隠す塚越大輔。
壁を盾にしながら、足音を響かせ近づいてくるそれを凝視する。
F1のレーサーなんかが着用していそうなヘルメットに、言わんばかりの防弾チョッキ。
塚越大輔は内心で、どこの軍隊だよ、と毒づいた。
潜ませた声で、携帯の向こう側の長野邦子に合図を送る。
「ターゲットが丁度いい場所に来た。行け」
『了解』


――途端、長野邦子が防弾チョッキの“奴”に接近。
抱えたバケツを傾けると、ターゲットに灯油が襲いかかった。
「うわっ!」
相手が狼狽した瞬間を欠かさず、スカートの中から緑色のライターを取り出し、相手に突き出す。
ここまでの動作で、ものの5秒もかからなかった。防弾チョッキの男は咄嗟にライフルを構えるが、長野邦子による次の言葉によりそれは無効化された。
「あたし、濡れてるでしょ? 灯油だよ? 撃ったら引火するかもよ? まあ尤も、あんたが一歩でも、指の一本でも動かせばあたしは自分であたしを燃やす。
あなたも灯油を浴びたから、あたしの服の灯油から引火するよ」
親指で手の中のそれを着火させ、一歩一歩、ゆっくりだが確実に男に歩み寄る。
「止めろ……、止めろって、な?…… あ、う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴の直後、男は後頭部に強い衝撃を感じた。
まるで何かで殴られたような……、否、殴られたのだ。