宇野side
あの夜の出来事の後から、私の周りはまた少し変わった。
隆弘の側を離れてからずっと、私の隣にいてくれた日高君は、今はもういない。
それでも、ふとした瞬間に視線がぶつかると、彼は少し困ったように微笑み返してくれる。
「一応俺、本気だったからさ。
まだ、そう簡単に全てを割り切れる程大人ではなかったわ。
まぁ、西島が心を入れ替えてくれたなら、もう横恋慕はしないから、安心しろよな。」
私の身勝手な甘えで、どれだけ彼が傷付いたのかは計り知れない。
それでもこんな風に笑って、私とも、隆弘とも接してくれる彼は、間違いなく本物の大人であり、紳士だと思う。
そして、そんな彼が今、優しい眼差しで見つめている存在。
「だっちゃん、今日飲みに行かない?」
無邪気な微笑みを浮かべて彼の元へ駆け寄る天使…千晃。
本当は、薄々気が付いていた。
たぶん千晃は、日高君のことが好きなんだろうなって。
でも、自分のことで精一杯だった私には、そんな千晃の一途な恋心に気を遣うことが出来なかった。
ゴメンね、千晃。
そのかわり、これからはとことん千晃の恋を応援するからね‼︎
千晃なら、日高君の全てを受け止めて癒してくれるだろう。
日高君なら、千晃の全てを包み込んで守ってくれるだろう。
2人の楽しそうな話し声が、今はとても心地良い。
そして、私の座るソファーの隣で今にも寝落ちしそうな彼…隆弘。
日高君と千晃が会議室から出て行ったあと。
「俺らさ、デビュー前からいつも一緒だったやろ?
気が付いたら俺、実彩子のとこ好きになっててさ。
だからこそ、実彩子を傷付けている原因が俺だってことが、許せなかったし耐えられなかった。
俺が実彩子の側を離れれば、実彩子を痛みや苦しみから守れるなんて、都合の良い言い訳でさ。
たぶん、自分自身を守りたかったんだわ。
どうして、実彩子と痛みも苦しみも一緒に分け合おうって、そう考えられなかったんだろうって、今は後悔してもしきれない。
けど、後悔だけしてても何も変わらないよな…。」
私に向かって言いながら、どこか自分に言い聞かせるように話していた隆弘が、一瞬口をつぐむ。
小さく息を吐き出し、呼吸を整えた彼が、今度は真剣な眼差しを、決して逸らすことなく私に向けながら口を開いた。
「実彩子…。
これからも、俺のせいで何度も実彩子が傷付くことがあると思う。
だけど、もう絶対に側を離れたりしないから。
実彩子のこと、守るから。
どんな痛みだって苦しみだって、一緒に受け止めるから。
だから、実彩子。
また俺の隣で、一緒にこの先を歩いてくれないかな?」
決してうわべだけの言葉でも、その場しのぎの言葉でも、単なる綺麗事でもない。
隆弘が心の底から思っていることがひしひしと伝わってきて、いつの間にか私の頬を何筋もの涙が伝っていた。
隆弘は、一瞬迷ったような素振りを見せたものの、ゆっくりと私に近付き、そっと頬の涙を拭ってくれる。
そして次の瞬間、私の体は隆弘の優しい温もりに包まれていた。
「やっと…やっと昔みたいに隆弘の隣にいられるんだね。
隆弘と一緒に、この先を見ていけるんだね。
…私、思うの。
隆弘と一緒なら、どんな痛みだって苦しみだって受け止められるって。
大好きだよ、隆弘。
もう二度と…お願いだから…私の隣からいなく…なら…ない…で…。」
隆弘の背中に両腕を伸ばし、隆弘の胸に顔を埋める。
最後の方は、涙で途切れ途切れになってしまった。
でも、想いは伝えられた。
これまで、ずっとずっと、言いたくて、でも言えなくて、心の奥底に封印していた想い。
「俺も、大好きだよ。
実彩子…愛してる。」
西島side
きっと、いつかは君も分かってくれるだろう。
そうやって、言葉にすることなくしまい込んだいくつもの想い。
どれだけ愛していても。
どれだけ大切に思っていても。
想いは、不器用でも良いから形にしなければ、気付いた時には君のいない現実だけが目の前にあって。
失ってから気付くには、その代償はあまりに大きすぎる。
ちっぽけなプライドなんて、捨ててしまえばいい。
君との未来さえあれば、君と一緒に見ていられるから。
完
