今、中村文則の「遮光」を読んでいる。

中村文則には少しだけ思い入れがある。

二十歳の時、諸用で山形県に一週間ほど滞在しなければならなくなった。
持ってきた本を東京駅に向かう電車の中で読み終えてしまい、仕方なく東京駅のキヨスクで買ったのが中村文則の芥川賞受賞作の「土の中の子供」だった。荷物になることを考えずにハードカバーを買って後悔したことをよく覚えている。
新幹線の中でそれを読みながら、俺はこの先どうやって生きていくのだろうな、と思った。
友達とか、恋人とか、生活とか、そういうものが今と変わらずに在り続けるなんて信じられないな、と。
当時、付き合っていた女の子は僕にしょっちゅう「もっと大人になりなよ」と言って呆れていた。彼女のその表情も、いつかは遠い日の思い出になることが怖かった。

山形県に滞在中も、荷物になることも構わずたくさんの本を買ったけれど、何を買ったのか、中村文則以外はよく覚えていない。中村文則の文章には人の心にうねりを与える得体の知れない力がある。そういう作家に巡り合うために僕は本を読むのかな、と思ったり思わなかったり。