あっという間に1ヶ月余りが過ぎた。

これから、

2ヶ月、3ヶ月と過ぎて

あの日の記憶が、

悲しみや寂しさが、

薄れていくだろう、

その事実を思うと、

切なくなる。



過ぎ行く時間の速さは、

あまりに無情だ。



周りの変化に

今はついていけない。


一人になれば、

勝手に涙が溢れてくる。





濁流の津波の中、

白と黒の模様の猫は

海水にのまれて溺れ死んだのだろう。


あの冷たくて、

暗い水のなか。


さぞ、恐ろしかっただろうに。





きっと家の二階で

ニャーニャー鳴いているはず。

冷たくなって、
ちっちゃくなって、

震えてるはず。



だから抱き締めて、

温めてあげよう。


ごめんね、恐かったよね。


いっぱいいっぱい

抱き締めてあげるから。



今行くよ!















どうして…












たどり着いた我が家は、

1階の床板を

残しただけの状態だった。


家の二階など、

あるはずがない。



あのこをこの腕に

抱きしめられるはずなどない。


初めから、

すでに津波にのまれていたんだ。


全て、何もかも。



下手な希望など、

持たなければ良かった。



おまえと、

また暮らせるんだ、

なんて、

思わなければ良かった。






気まぐれで、

自分勝手なおまえと

もう

会えないなんて




マメ




どこにもいないのかい?





明けない夜はない

と、人は言う。


ならば、


枯れない涙はない



と、今はおもう。













ダイエーへ買い出し。

1時間半待ちの行列。


その脇を一組のカップルが
歩いてった。

「なんでこんなことしなきゃ買えないの?」

とつぶやきながら。














カタカタ カタカタ


みんなの
ひび割れた家の音



じしんの音




ふるえる音







いろんな音がこわい





心の中が、
やっとまとまってきた。


地震発生から、12日め。


住み慣れた町を思い出す。


小学校、公園、
テトラポットと、
低い堤防。
そして、実家。

つい何日か前まで、
平凡と暮らしていた
我が家だ。



ここ数ヵ月は、
休みの度に部屋を
掃除してた。

小さい頃からの
思い出のもの達を整理して風水なんかで見た、
縁起の良い間取りなんかを取り入れて、
自分好みの部屋にした。

流行の断捨離だ、なんて
母親にからかわれて(笑)

今まで、
見向きもしなかった
お花なんて飾ったりして。

ただ、ふつうに
暮らしてたのにな。






町全体が、
ぐちゃぐちゃになってた。


残ったのは、
鉄筋コンクリートの建物と運河と、おだやかな海。


我が家の跡は、
居間の掘りゴタツ。


夢であってほしいのに。


今日も目が覚めて見るのは

知らない天井。

おばちゃん家の
二階だった。