~夏輝&春①~
   
ヤンチャな過去』
    
  夕暮れ時の屋上は、どこもかしこも薄い オレンジ色で満たされている。

  夏輝
       (今日ももう終わりだな)
 
  この光景を見ると、夏輝はいつも少しだけアンニュイな気分になる
 
  ひとつため息をつくと、夏輝は内ポケットからタバコの箱を取り出した。

  夏輝
      (ん……?)

  タバコを口にくわえつつ、ごそごそと内ポケットをまさぐってみる。

  夏輝
      (……ライター、どっかに忘れてきたっぽいな)

  夏輝
    「はぁ……」

  くわえていたタバコを外して、小さく溜め息をつく。

  春
    「……どうした?」

  夏輝
    「あ……」

  呼び声に振り向くと、ちょうど春も屋上へやってきたところのようだった。

  夏輝
   「春もタバコ?」

  春
    「ああ」

  夏輝
     「ちょうどよかった。よかったら火、貸してくれない?」

  春
     「……ああ、構わない」

  夏輝
     「サンキュ」

  春から手渡されたライターで火を点ける。

  夏輝
     「ありがと、助かった。先に借りてごめん」

  春
     「いや……気にするな」

 そう言いながら春もまた、自分のタバコに火を点けた。

 紫煙をくゆらせながら、2人で鉄製のフェンスにもたれかかる。

  春
     「……」

  夏輝
      「……今、『今日ももう終わりだな』って思った?」

  春
     「……何故?」

  夏輝
     「なんとなく。あと、俺もさっきそうおっもったから」

  春
     「……そうか」

 ふっと笑い合うと、どちらかともなく遠くを眺めた。

 頭上には暮れなずむ夕空。そして、眼下に広がるのはオレンジの街並み。

  夏輝
     「……」
   夏輝
      「……」

 夏輝は横目で、隣にいる春をちらりと見やった。

   春
     「…………」

 何を話すわけでもなく、春は隣でタバコを吸っている。

 ちょうど、茜色の夕焼けが春の頬に反射しているところだった。

   夏輝
     「……あの時と、同じだな」

 気が付くと、夏輝はそんな感傷的なことを呟いてた。

   春
    「あの時……?」

   夏輝
    「ほら、アレだよ」

  そのまま何気なく続けようとして、無意識に言葉が詰まる。

 バツの悪さを誤魔化そうと、夏輝は、自嘲めいた笑いを吐き出し。

   春
    「……何がおかしい」

   夏輝
    「いや、……俺が昔、ヤンチャしてた頃の話」
    「あの時もこうやって、夕暮れ時に2人で屋上にいたよなって。もしかしたら、
        春は覚えていないかもしんないけど」

   春
    「ああ……あれか」

   納得したようにうなずく春を見て、何故か胸が痛くなってくる。

    夏輝
      「なんだ、覚えてたのか。本当は早いトコ忘れてもらいたいんだけどなあ。完璧に黒歴史
          だし」

   笑いながら、夏輝はタバコの灰を灰皿へ落とす。

  それでも春は何か言うでもなく、タバコに口をつけている。

     夏輝
       「……今となってわ、なんであんな悪ぶってたのかって感じだけど」

   間を埋めるように、夏輝はついつい言葉を重ねてしまう。

     夏輝
       「若さゆえの過ち、って言えば聞こえはいいのかな」
       「かと言って、それを不良時代の免罪符にするつもりはないけどさ」

     春
       「……ああ」

     夏輝
       「色々なもの傷つけたし、なくして。ホント……今思い返してもろくでもない」

     春        
      「そうか」

  春は夏輝の話に、ゆったりとした相づちを打ってくれる。

  逆に言えば、春は相づち以上のことは何も言わないでいてくれた。

     夏輝
       「マジであの時に春がいなかったら、俺さ……」

  再び言葉が詰まる。

  黙りこくった夏輝を不思議に思ってか、春が少しだけこちらを向いた。

    夏輝
      「……春」

  短くなったタバコの先端を灰皿へ押し潰す。

  タバコの火はジュッと音を立てると、僅かな煙を立てて消えて行った。

    夏輝
      「俺、今でもたまに思い出すんだ……あの頃のこと」
      「もし俺が、あの日のまま止まってたらどうなってたかな、とかさ」
      「 今だから言えるけど……俺、あの時のままだったら、ここにはいられなかったと思う」
        (それに……きっと彼女とも会えなかった)

  茜色の空に浮かぶのはもちろん、○○の顔だった。

  芯が強くて真っ直ぐな、いつまでも眺めていたくなるあの笑顔。

     夏輝
       (今の俺がいるのも、彼女と出会えたのも……全ては夕暮れのあの日があったから)

    夏輝
       「だからさ……」

  更に言葉を続けようとした夏輝へ向かって、春はスッと手を差し出した。

    夏輝
      「……え?」

 夏輝は思わず差し出されたそれを受け取ってしまった。

    夏輝
       (あ……ライター)

    春
     「……」

  春は何も言わない。

  夕空の遠くの方を眺めながら、無言でタバコをくゆらせている。

  夏輝には傍らにたたずむその姿が、何故だか酷く大きく感じられた。

     夏輝
       (……春)

  手の中のライターを見つめながら、夏輝はゆっくりと言葉を飲む。

     夏輝
        (やっぱり……敵わないな)

   気付けば自然と笑みがこぼれていた。

   それは、安堵混じりの笑みだった。

      夏輝
       「…………」

   春から受け取ったライターで、新しいタバコに火をともす。

   煙の匂いを感じながら、夏輝は春のライターを握りしめた。

      夏輝
       「ありがと」

   夏輝が春のライターを返すと、春はなんでもないように

       春
       「ああ」

   と返した。

   それから暫く2人は無言でタバコを吸いながら、空の色が変わるのを眺め続けていたのだった。




 
 ~♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~♪~

 全く打ち込む時間がなく、約1ヶ月かかりました(  TДT)

 誤字など、お許し下さい。しかし、ここで区切ったり、これはひらがな…とか…多々思う事ありました。