俺はオーディエンスの一人一人の善意にすがりながらエメラルドの未来都市をさ迷ってた。そんな時に、お前の真っ赤なミニクーパーの影が視界の端に飛び込んできた。まるでよく出来た蜃気楼みたいだった。必死にそのROCKの王の名前を思い出そうとしてた。

 俺の確信は最高潮を迎え、もう今日からはドン底の人生を選ばされなくてもイイんだって感じた。きっと善意に甘えなくても食うには困らないだろうし、あたり一面のゴミの中に黄金がバラ撒かれるだろうって待ち構えてた。

 ミニクーパーは俺の前で停止した。お前は俺を見つけると笑顔で車から降りてきた。やっと俺の人生の目的は達成されたんだと思った。でも唐突にお前は掌を突き出してきて「俺に何をくれるんだい」って言った。

 まさかこの貧乏シンガーに向かってそんな事を言うとは、キングの趣向はなんてエキセントリックなんだ。俺は驚いて、何て答えればイイのか悩んだけど、その内ボロボロのボディバッグの底から薄っぺらい一枚のピックをゆっくり取り出して、お前に渡したんだ。

 そして、そんな一日が終わって、ボロボロのボディバッグの中身を床にブチ撒けて、ソコに薄っぺらい一枚のピックを見つけた瞬間、俺は心臓が止まるかと思ったんだ。俺はただ泣いた。俺の全財産を丸ごとお前に渡してしまえたら良かったのにって思った。