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単純が大切という話をします。

技術の世界において「単純を軽んじる者」は、いずれ複雑の中で迷う。
すべての高度な仕組み、洗練されたシステム、精密な構造は、
実は“単純な作業の正確な連続”によって支えられている。

電気施工における締結、導通確認、絶縁測定。
それら一つひとつは単調に見えるが、その連続こそが信頼を生み、
“動かしても壊れない”という安心を形づくる。
単純な作業を怠ったシステムは、どれほど理論が立派でも不安定である。

単純とは、知識ではなく姿勢である。
同じ測定を百回繰り返す中で、技術者は“異常値の気配”を感じ取る。
それは計器では測れない感覚――精度の奥に宿る「勘」とも呼ばれる直観。
この直観は、単純を侮らず、日々の反復を大切にした者だけが手に入れる。

やがて技術者は気づく。
単純の連続とは、外に向けた作業であると同時に、
自らの心を磨く「内なる鍛錬」であるということを。
同じ動作を繰り返す中で、雑念が削ぎ落とされ、
動きに無駄がなくなり、判断が澄んでいく。
それはまるで禅の作法にも似た境地だ。

高度化する社会の中で、私たちはしばしば“複雑さ”を価値と錯覚する。
だが、本当の技術とは複雑を単純へ還元する力である。
美しい設計とは、単純でありながら強靭なもの。
熟練の施工とは、手順を減らさず、精度を増すこと。
この矛盾の中に、技術者の真価が宿る。

「単純の連続があらゆるもので基本となる」
この言葉は、単なる作業指針ではない。
それは、技術者が誇りをもって仕事に臨むための哲学的原点である。
単純を極める者だけが、複雑を支配し、未来を設計する。
そしてその姿勢こそが、次の世代へ受け継ぐべき“技の魂”なのだ

技術とは何か